先日、少し時間的余裕があったときに書いた「いまさら聞けない、DSPって何!?」という記事が予想外に反響がありました。ここで書いた「DSP vs FPGA」というテーマに多くの方の関心をもってくださったようです。SNSでの反応やコメント欄の書き込みを見ると「エフェクトにFPGAを使うAntelope(アンテロープ)に関する情報がもっと欲しい」という要望が非常に多くみられました。

確かにユニークな製品をいろいろ出している一方で国内にはまだ情報が少ないのも事実。Antelope Audioの本社は東欧にあり、開発・製造は本国で行っています。日本にAntelopeのサポート拠点はあるけれど、マーケティング活動は本国側でおこなっていることも情報が少ない要因かもしれません。とはいえ、Antelopeが打ち出すオーディオインターフェイスは、ビンテージ機材を忠実に再現するエフェクトを中心に現在70種類以上のエフェクトが無料で使えると同時に、レイテンシーを限りなくゼロに近いレベルで実現できるなど、ほかにない魅力を持った製品を出しています。そこで、先日、Antelope Audioのセールスディベロップメント担当のラドスラフ・ミラノフ(Radoslav Milanov)さんに、Skypeでインタビューしてみました。


FPGAで動く数多くのビンテージエフェクトをユーザーに無料提供するAntelopeに話を聞いてみた


日本語が堪能なミラノフさん、昨年、日本でお会いしていたので、メールで連絡をとってみたところ、喜んでインタビューに応じてくれたのです。日本の大学への留学経験があるというミラノフさん、実は私と同じ大学だったのにもビックリするとともに、とっても親近感を覚えたのですが、今回は、FPGAの話を中心に、かなりマニアックに、いろいろと突っ込んで話を聞いてみました。


Antelopeのセールスディベロップメント担当、ミラノフさんにSkypeでインタビュー

--Antelope Audioというと、高精度なクロックジェネレターのメーカーというイメージも強いのですが、FPGAのエフェクトを作るようになったのはいつごろからなのですか?
ミラノフ:当社は2002年に現CEOでもあるイゴール・レビン(Igor Levin)が設立した会社で、その当初からマスタークロック・ジェネレーターに特化したシステム開発を行ってきました。そのクロックとして大ヒットとなった Isochrone Trinityを開発する際に、FPGAを利用したのが当社のFPGA搭載のスタートです。そこでのノウハウを元にして、2014年にリリースしたオーディオインターフェイス、Zen StudioがFPGA FXを搭載した最初の機材ですね。現在、AntelopeのFPGA FXはビンテージエフェクトを再現するものが中心ですが、スタートはオリジナルのデジタルコンプとデジタルEQからでした。


いまも現役のエンジニアとして、各製品の開発に携わっているCEOのイゴール・レビンさん

--改めて、FPGAとは何なのかを簡単に教えてもらえますか?
ミラノフ:FPGAとはField-Programmable Gate Arrayの略で、デジタルICのひとつです。FPGAがユニークなのは、ファームウェアを書き換えることで、デジタル回路そのものが書き換わるということ。極論すれば、ファームウェア次第で、どんなデジタル回路でも作れてしまうICなんです。このFPGAでエフェクト回路を組むことで非常に大きなメリットが得られるのですが、CPUでエフェクトを実演する場合、DSPでエフェクトを実現する場合と比較することで、FPGAのメリットが見えてきます。


Antelopeのオーディオインターフェイスには、FPGAと呼ばれるチップが搭載されている

--ぜひ、FPGA、CPU、DSPを比較しての違いを分かりやすく教えてください。
ミラノフ:いまCPUベースで動くプラグインのエフェクトは数多くあります。これはIntelのCore-i7などのCPUでプログラムを作って動かす仕組みになっています。それに対しDSPも同様にプログラムで動かすのですが、DSPはCPUと比較してエフェクトなどの信号処理専用となっているだけに、ずっと速く動くのが特徴です。ただ、DSPの処理速度はそろそろ限界に来ているとも言われています。それに対してFPGAはゲート回路というものを書き換えるためにプログラム処理を必要としません。信号流せば、そのままエフェクトとして機能するのです。だからほぼレイテンシーなしで動作するのが特徴です。実際、192kHzのサンプリングレートで動作させていても、FPGA処理だと9サンプル程度でエフェクト処理ができてしまうのです。またコンプレッサ用、ギターアンプシミュレータ用、EQ用など、複数の回路を組めば、それぞれ完全に並列処理されるのもFPGAの特徴となります。CPUもDSPも並列処理というのはありますが、基本的には順番に処理していくので、どうしてもレイテンシーが大きくなってしまうのです。


以前にも記事でとりあげたFPGA FXを搭載したAntelopeのオーディオインターフェイス、Discrete4

--現在あるAntelopeのFPGA FXを見ると、Overloudのギターアンプシミュレーターなどがあり、見た目はCPUベースのプラグインとソックリですよね。レイテンシーが小さいという話がありましたが、ほかにFPGA FXでのメリットはありますか?
ミラノフ:FPGA FXの最大のメリットは、コンピュータのCPUに一切負荷がかからないという点です。DAWで扱うトラック数が増え、エフェクトが増えてくるとどうしてもCPU処理では限界がありますが、FPGA FXを利用すれば、CPUに負荷がかからないため、DAWをストレスなく利用できます。これについてはDSPも同じように見られがちですが、DSPの場合はエフェクトプログラムは常にPCからメモリを介して読み込ませる必要があるので、すべてハードウェアで処理しているFPGA FXのほうが本当の意味で負荷がかからないのです。また処理はすべてオーバーサンプリング浮動小数点演算しているので音質の劣化がまったくないということろがFPGA FXの魅力だと思います。エイリアシングノイズも最小限に抑えられます。


出荷前には入念なテスト、チェックが行われている

--最初はオリジナルのデジタルコンプ、デジタルEQでスタートしたFPGA FXも今ではかなりの数になっていますよね?
ミラノフ:そのOverloudのギターアンプシミュレータなども含め、現在70種類ほどになります。ビンテージ機材を再現するエフェクトがほとんどで、EQ、コンプ/リミッタ、マイクプリ、ギターアンプ、ギターキャビネットなどなどです。


現在、約70種類のエフェクトが無料で提供されている


--Universal AudioはUAD-2エフェクトとして、各ビンテージメーカーと協業してホンモノを実現させています。それに対して、Antelopeの場合は、各社と協業というわけではないですよね?
ミラノフ:他社についてコメントする立場にはありませんが、Anetlopeとはいろいろとスタンスに違いがあると思います。表には出しにくいのですが、オリジナルメーカーとしっかり組んで開発しているものもありますよ。ライセンス料が発生しないので、これらFPGA FXをユーザーに無料で提供できるというのも大きなメリットです。無料だから質の低いもの、と思っている方もいるようですが、多くのプロユーザーが、ビンテージ機材の代わりにFPGA FXを活用してる実績を見れば、いかに高品位なエフェクトであるかを理解いただけると思いますよ。オーディオインターフェイスからエフェクトまで全部そろえる値段で見ると、Antelope製品が非常に割安であることも分かっていただけると確信しています。


ブルガリアにいるAntelope Audio社員のみなさん。DTMステーション用に撮影に応じてくれた

--でも、どうしてAntelopeは、FPGA FXでビンテージエフェクトを再現することにこだわっているのですか?
ミラノフ:もともとの発想は、時代とともに状態が悪くなっていく名機をそのままデジタルエフェクトとして保存したい、という考えから生まれたのが FPGA FX です。他のメーカーのプラグインと違ってその音質は本物そのものです。だから、レコーディングエンジニアをはじめとするユーザーのみなさんは、いつも使い慣れたビンテージエフェクトを使うのとまったく同じ感覚でFPGA FXを使うことができるのです。YouTubeビデオではありますが、FPGA FXの音質比較をしているものがあるので、参考になると思います。



--なるほど、そんな考えでFPGA FXが生まれてきたのですね。ちなみに、ミキサー画面の中央にAURAVERBというリバーブがありますが、これはビンテージ機材の復刻盤ではないですよね?
ミラノフ:はい、これはAntelopeのオリジナルのデジタルリバーブであり、5回のグラミー賞受賞者のBrian Vibbertsがデザインした24個のカスタムプリセットが含まれています。ほかのFPGA FXと少し異なるのは、これがリバーブなので、基本的にはDAWにレコーディングされるものではない、という点です。ボーカルのレコーディングをする際に、ボーカリストにはリバーブを返すのが必要となりますが、そうした際に、できる限り気持ちよく歌えるように、高品位なリバーブを返しているのです。ルーティング次第では、DAWにレコーディングすることも不可能ではないのですが、基本的にはモニタリング専用と理解してください。


基本的にモニター専用として利用するリバーブ、AURAVERB

--FPGA FXはハードウェア的に実現しているということですが、やはり気になるのはFPGA FXが同時にどれだけ立ち上げられるかですが、この点はいかがですか?
ミラノフ:無限にというわけにはいきませんが、もちろんFPGA FXでも同時に複数利用することは可能です。基本的には、同じエフェクトを最大8つまで同時に使用していただくことが可能で、エフェクトカテゴリーごとに最大同時使用数が変動します。つまりVintage EQ、Vintage Comp ごとで領域を使い切ってしまうと新たに追加できないという感じです。占有率はエフェクトによって変動しますが、提供されるエフェクトチャンネルの領域を使い切ることは稀だと思います。

--そのFPGA FX、これまでどんどん増えてきて70種類までになったとのことですが、これはまだ増えていくのですか?
ミラノフ:この2、3か月の間にもテープエミュレーションが追加されたり、新しいプリアンプが追加されるなど、増えてきており、そのペースは一定ではありませんが、1年に10種類程度は新エフェクトが追加されてきました。どのくらいかとは断言できませんが、今後も増やしてく予定であり、その時も常に無料で増えていくので、既存のユーザーの方にとっても大きなメリットがあるわけです。


先日新たに追加されたテープエミュレーションのReal to Real

--とはいえFPGAにも容量の限界があると思うので、無限に増やしていくことはできないと思うのですが……。
ミラノフ:その通りです。実際、2015年に発売したOrion Studioは搭載したFPGAの容量に限界がきていてこれ以上は追加できないところまできました。一方で、同じOrion Studioも2017年モデルであれば、まだまだアップデートしていくことが可能です。もちろん、先日発売したDiscrete 4やDiscrete 8も同様です。どんなエフェクトを搭載していくかによっても変わってきますが、少なくとも100種類程度のエフェクトは利用できると思います。


お話を伺ったミラノフさん

--数多くのエフェクトがレイテンシーなく使えるのはいいし、Antelopeのオーディオインターフェイスユーザーなら、すべてを無料で使えるのは嬉しいのですが、これらはオーディオインターフェイス内での処理だから、DAWから見ると外付けエフェクトという感覚ですよね。UAD-2エフェクトの場合、プラグインとしても使えるのが魅力だと思うのですが……。
ミラノフ:その点については、これまでも多くのユーザーから要望がありました。それに対応できるよう、この度AFX2DAWというシステムを間もなくリリースします。これは、まさにFPGA FXをDAWのプラグインとして使えるようにするためのものです。これによって掛け録りだけでなく、録音してから自由にパラメータを調整するといった使い方も可能になるのです。一方で、マイクモデリングにおいては、すでにCPUベースのプラグインとして使えるバージョンも出しているので、あとでマイクモデリングを変更するといったことも可能になっています。


AFX2DAWはWindows/MacともにThunderbolt接続の場合に利用できる形になっている

--そのマイクモデリングについてですが、Antelopeでは、2種類のコンデンサマイク、EdgeとVergeを発売していまして、これらを使うんですよね。このマイクモデリングもFPGA FXのエフェクトの一つという位置づけなんですか?
ミラノフ:そうですね。ラージダイアフラムのマイクEdge用にはBerlin 87、Tokyo 800T、Berlin 47FT、Sacramento 121Rなど11種類、スモールダイアフラムのVergeはBerlin 184、Perth 55など5種類のモデリングを用意していますが、いずれも有名なビンテージマイクをモデリングしており、これらを使ったことのある方なら、まったく同じ感覚ですぐに使うことができるようにしています。


Edge(左)とVerge(右)

--マイクモデリング自体は、かなり古くから各メーカーが実現していたものですが、それをFPGAでモデリングしているというのは面白いですね。とはいえ、元のマイクの性能が悪いと、いくらモデリングしても、多少の雰囲気が出てもまともに使えないのが現実だと思いますが、その点はいかがですか?
ミラノフ:まさにその通りなんです。実はEdgeやVergeは某著名ビンテージマイクメーカーと共同で開発している超高性能マイクであり、モデリングをしなくても、Edge、Vergeとして非常に質の高いマイクとして使うことが可能となっているんです。それをベースにしてのモデリングなので、某社のマイクモデリングシステムとは比較にならないほど、、圧倒的なクォリティーであり、使えるマイクモデリングとなっています。今後もこのマイクモデリングの種類を増やしていきたいと考えています。


さまざまなマイクモデリングが可能

--とはいえ、本当に使えるマイクなのかは、実際に使ってみて、ホンモノと比較してみないことには、ピンとこないのが実情だと思うのですが……。
ミラノフ:そこについては、10月末ごろに、都内のスタジオで、多くのレコーディングエンジニアやプレスを招いて、マイクのレコーディングテストをしてみたいと考えています。実際に音を聴いてみれば、プロのエンジニアのみなさんも、即、実践で使えるマイクモデリングであることを実感してもらえるはずです。そこでの比較内容については、一般にも公開していく予定ですので、楽しみにしていてください。まずは、各マイクモデリングでの音をYouTubeで紹介したものがあるので、ご覧になってみてください。


--FPGA FXについてだいぶ理解することができました。ある意味、FPGA FX は未来のスタジオや制作のあり方を見据えたシステムといえるのかもしれませんね。まだまだエフェクト数も増えていくとのことですから、Antelopeのオーディオインターフェイスで未来を先取りしていくのもよさそうです。ありがとうございました。

【関連情報】
Antelope Audioウェブサイト
Discrete 4製品情報
Discrete 8製品情報
Edge製品情報
Verge製品情報

【価格チェック&購入】
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