2024年のクラウドファンディングで大きな話題を集めた、AlphaTheta(アルファシータ:旧Pioneer DJ)のTORAIZブランドのコード進行生成マシン「Chordcat」。当時は「指一本でコードが弾ける」「コード進行の発想を広げる」というユニークなコンセプトが話題となり、DTMステーションでも「音楽制作をもっと直感的に。革命的なコード進行生成マシン、Chordcat誕生。12月10日まで29,700円でクラウドファンディング実施中」という記事で取り上げたことがありました。クラウドファンディング終了後、昨年7月には一般販売も開始したわけですが、その後も開発は続き、次々とファームウェアのアップデートという形で進化してきたのです。
その最新版では、自分で好きにコードを打ち込むことができるコードエディットモードを搭載。これにより、自分の設定したコードの次のコードをリコメンドしてもらえるようになりました。またDAWとの連携を前提した機能がいろいろ追加されるなど、単体完結のガジェットという枠を超え、「音楽制作全体を加速させるツール」へと進化してきています。AlphaThetaは、その最新版のChordchatをアメリカ・アナハイムで開催中のThe NAMM Show 2026に出展。さらに、ここではChordcatの次の展開となる製品のプロトタイプの展示も行われて大きな注目を集めています。現地では、Chordcatの企画・開発者である古谷昭博さん自らデモをしながら説明をしていましたが、Chordcatの進化点などについて伺うこともできたので、紹介していきましょう。
クラファンから1年。Chordcatはいまどうなっているのか
Makuakeでのクラウドファンディングは目標金額の70倍以上を集める大成功。当初はガジェット好きが集まるだろうと考えていたそうですが、蓋を開けてみると意外な結果となっていたようです。
「アンケートを取ったところ、7割から8割の方が音楽制作をされている方だったんです」と語るのは、AlphaThetaの古谷さん。その後、昨年7月に一般販売をスタートすると、国内だけでなく海外への販売も拡大していきました。結果的に初期ロットは昨年10月に完売となり、しばらく入手できない状態が続いていました。しかし、ようやく次のロットの生産が完了し、出荷がスタートしているようです。
興味深いのは、初期ロットにおける国内外の販売比率。DJ機器では圧倒的に海外がマジョリティを占めるAlphaThetaですが、Chordcatに関しては国内の比率が最も高いとのこと。コードという音楽性が、日本市場に特に刺さったのかもしれません。
そのChordcatは、初期ロットが完売した10月以降も着々と進化し、さまざまな機能が搭載されていったのです。
最大の進化点:自分のコードから始められるようになった
その進化の中で、最大のポイントとなるのが「コードエディットモード」の搭載です。
初期のChordcatは、プリセットされたコード進行を選んで演奏するスタイルでした。指一本でコードが弾け、Chord Cruiser(コードクルーザー)で次のコード候補をレコメンドしてくれる――これがChordcatの魅力でした。しかし、リリース当初は「自分でコードを打ち込む」ことができなかったのです。
「多くのお客様から、自分が知っているコードを打ち込みたい、そこからレコメンドを使いたいという声をいただきました」
この要望に応えて生まれたのがコードエディットモードです。使い方はシンプル。SHIFTボタンを押しながら10番のタッチキーを押すと「EDIT CHORD SELECT」画面に入ります。編集したいコードを選んでEnterを押せば、タッチ鍵盤が表示され、構成音を直接指定できます。
たとえば、D#M9というコードからF4の音を外せば、自動的にD#M7として認識されます。オクターブボタンで表示を切り替えれば、上下のオクターブの音も自由に編集可能です。また、外部MIDIキーボードによる入力も可能となっています。
興味深いのは、Chordcatのコード認識の仕組みです。コード名はデータベースに登録された構成音から自動判定されますが、データベースにない組み合わせの場合でも「オリジナルコード」として扱われます。そして、このオリジナルコードからでもChord Cruiserでコード進行を展開できるのです。
「近似のコードを見つけてきて代替してレコメンドする仕組みになっています。また、オリジナルコードからボイシングを変更して、データベースに登録されているボイシングに置き換えることもできます」
つまり、理論が分かる人は自分でコードを組み立てられるし、分からない人はデータベースの11万通りのコード進行から選べます。両方に開かれた設計になったのが、今回の最大の進化点だといえそうです。
なお、第3ロット以降のChordcatには、10番のタッチキーにChordEditという文字がシルク印刷されているのでより分かりやすくなりそうです。逆にいうと、10番のキーを見れば、第1/2ロットなのか、第3ロット以降なのかが分かる、というわけですね(といっても、それ以外には何も違いはないのですが)。
打ち込みもできる。Chordcatは”弾けるシーケンサー”になった
Ver.1.3では、外部MIDI入力によるシーケンスREC対応も実現しました。つまり外部MIDI機器から入力されたMIDIデータのリアルタイムレコーディングに対応したのです。
もともとChordcatはMIDI出力が可能でしたが、今回のアップデートで外部MIDI機器からのシーケンス入力にも対応。USB-MIDIとDIN-MIDIの両方が使え、トラックごとにMIDI入力を設定できる柔軟性も備えています。MIDIチャンネルは1から16まで選択可能で、デフォルトの設定ではChordcatのトラック番号と入力のMIDIチャンネルが同じ形で紐づいているのです。
「外部MIDI機器からのシーケンスの打ち込みに対応してほしいという要望が多かったんです」
と古谷さん。これにより、Chordcatは「コードを考えるマシン」から「演奏も受け止めるマシン」へと変わりました。MIDIキーボードで演奏を録音し、Chordcatのシーケンサーに記録。そこからコード進行を抽出して、Chord Cruiserで展開していく――そんな使い方も可能になったわけです。
地味だけど効く。制作とライブを変える操作系アップデート
細かい機能改善も見逃せません。特にライブユースを意識したアップデートが目立ちます。
まず、トラック/パターンの切り替えが大幅に改善されました。従来はトラックボタンを押してトラックを選び、その後パターンボタンを押してパターンを選ぶという2段階の操作が必要でした。しかし今回のアップデートで、トラック選択モードのままパターンボタンを長押ししてパターンを選択し、ボタンを離すと自動的にトラック選択モードへ戻るようになりました。
「マシンライブをやる人から、トラックとパターンの切り替えがもっとスムーズにできないかという声をいただいていました」
さらに、パターン一括切り替え機能も追加されました。メニューの「System Settings」で「Pattern Change」を「All」に設定すれば、あるトラックでパターンを切り替えると、全トラックが同じパターン番号に変わります。これにより、イントロ・Aメロ・サビといった楽曲構成をパターンで管理できるようになりました。
初期バージョンでは各トラック個別にパターンを選べる仕様でしたが、「他のトラックがついてこないので、曲の展開が作れない」という声を受けての改善です。もちろん、従来通り個別(Individual)モードも選択できます。
プロジェクトの上書き保存にもショートカットが追加されました。SHIFTを押しながらEnterでクイックセーブが可能です。
コード単位のトランスポーズも自由度が増しました。従来はコードセット全体にトランスポーズがかかる仕様でしたが、今回のアップデートで特定のコードだけをトランスポーズできるようになりました。例えば3番のコードだけを移調したい場合、3番のタッチキーを押しながら左右ボタンを押せばいいのです。
「ハウスで使うようなワンコードを並べて、そのコードを単純にトランスポーズしたいという要望が多かったんです」
また、トランスポーズの幅自体も広がりました。従来はMIDIの最低音と最高音の限界に達すると、それ以上トランスポーズできない仕様でしたが、今回のアップデートでその制限を突破。音域の限界を超えた音は単純に欠落しますが、実使用上ほとんど問題にならないとのことです。
Ver.1.1で追加された機能も見逃せません。メトロノームの音量設定が可能になり、ユーザーコードセットのSave/Load機能も実装されました。
この機能は特に重要です。従来はコードセットをプロジェクト単位でしか保存できませんでしたが、このアップデートでコードセットを独立して保存できるようになりました。メニューの「ユーザーコードセット」からSaveを選べば、作成したコードセットが保存されます。そして、新規プロジェクトを作成した際に、保存したユーザーコードセットをロードできるのです。
「実はこの機能、これまでまったく告知していないので、大多数の人は知らないと思います」と古谷さん。プロジェクトをまたいでコードセットを使い回せる利便性は、実際に使ってみると手放せなくなるでしょう。
こうした改善の積み重ねが、Chordcatを「ユーザーの声で育っている機材」という印象を強めています。
DAWユーザーにこそ知ってほしい「Chordcat Manager」の存在
DTMステーション的なハイライトといえるのが、Chordcat Managerの存在です。これは無料で配布されているWindowsおよびmacOSで動作するPCアプリケーションで、Chordcat本体で作成したプロジェクトデータをPCにバックアップしたり、他のChordcatユーザーとデータを交換したりできます。
さらに、先述のユーザーコードセットもPC上で管理できます。自分が作ったコードセットを誰かに公開したり、ウェブ上からダウンロードしたコードセットをChordcatに読み込ませたりすることができるのです。
「まだ我々からオフィシャルにコードセットを提供していないのですが、お客様同士で共有していただいたり、今後我々からもコードセットを随時アップデートしていこうと考えています」
しかし、Chordcat Managerの真価はそこだけではありません。あまり知られていませんが、実はSMF(スタンダードMIDIファイル)の入出力にも対応しているのです。
DAWで作成したMIDIファイルをChordcat Managerにドラッグ&ドロップすれば、Chordcatのシーケンサーにパターンとして読み込まれます。逆に、Chordcatで作成したシーケンスデータをSMFとして書き出すことも可能です。
ベロシティとゲートは完全に反映されます。ただし、Chordcatのシーケンサーは16ステップ単位なので、DAWで細かく打ち込んだマイクロタイミングは、近傍の16ステップにまとめられます。それでも、コード進行のスケッチをChordcatで作り、SMFでDAWに読み込んで本格的な制作に移行するという使い方は十分に実用的です。
つまり、Chordcatは単体で完結する機材ではなく、DAWと組み合わせることで真価を発揮するMIDIアイデア生成マシンなのです。コード進行を考える時間を大幅に短縮し、11万通りのデータベースを活用して効率的に音楽制作を進められます。この「DAWとの連携」という視点が、Chordcatを最も有効に活用する鍵だといえるでしょう。
NAMM 2026で展示された”次のChordcat”につながるプロトタイプ
NAMM Show 2026のAlphaThetaブースでは、Chordcatの「次」につながるプロトタイプが展示されていました。正式な製品ではなく、あくまで「こういう体験ができたらどうですか?」というコンセプトを示すもの、とのことですが、これが非常に面白く、画期的なデバイスでは、と感じたのです。以下がそのデモを別室でビデオに収めたものです。
かなり面白いと思いませんか?見るとわかる通り、Chordcatにリボンコントローラーを組み合わせたシステムです。Chordcat本体でコード進行を演奏しながら、リボンコントローラーでメロディを奏でます。重要なのは、このリボンコントローラーが「スケールに乗っている」という点。つまり、どこを触っても外れた音が出ない設計になっているわけで、誰でも簡単に演奏ができてしまうのです。
※特許出願中とのこと
「コードは弾けるけど、メロディを弾くのは大変だという声をいただいていました。コード担当とメロディ担当、という役割分担ができたら面白いのではないかと考えています」
このプロトタイプでは、音源はChordcat内蔵のものではなく、MIDIを経由してモジュラーシンセサイザーも接続された形になっていました。全体として、Chordcatがコード進行の司令塔となり、周辺機器と連携して演奏システムを構築するという未来像が見えてきます。
「フィードバックをいただいて、需要がありそうであれば、今後製品化も検討していきます」と古谷さん。
あくまで実験的な展示ですが、Chordcatというプラットフォームが、今後どのように発展していくのか。その可能性の一端を垣間見ることができました。
いまChordcatをどう使うのが一番面白いのか
最新ファームウェアを搭載したChordcatの価格は38,500円(税込)です。Makuake時から若干値上がりしていますが、現在の物価状況を考えれば妥当な価格帯といえそうです。海外では日本よりもやや高めの設定となっており、NAMMが開催されているアメリカでは$329($1=160円換算で、52,630円)となるので、日本で買うのが安そうですね。
では、DTMerにとって、このChordcatをどう使うのが最も面白いのでしょうか。
もちろん単体で完結するグルーヴボックスとして使うのもいいでしょう。しかし、真価を発揮するのは「DAWと組み合わせる」使い方です。コード進行のアイデア出しにChordcatを使い、SMFでDAWに読み込んで本格的なアレンジに展開する。あるいは、DAWで打ち込んだフレーズをChordcatに読み込んで、Chord Cruiserで異なるコード進行を試してみる。
ハードウェアならではの触感と、11万通りのコード進行データベースという膨大な知識。この両方を活用できるのがChordcatの強みです。そして、古谷さんは
「継続してユーザーの要望に応じてアップデートを行っていきます」
と話していた通り、今後もどんどん進化していくハードウェアのようです。コード進行を考える時間を短縮し、音楽制作の効率を上げてくれるデバイスとして買って損のないマシンだと思います。NAMMを通じて世界中で話題になりそうですが、前回のように製品がなくならないうちに早めに入手することをお勧めします。
【関連情報】
AlphaTheta Chordcat製品情報
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