バックに映るMoog Modular IIIでポケット・ミクをコントロールする安西史孝さん(右)と入鹿山剛堂さん(左)
具体的な話に入る前に、まずは安西さんがニコニコ動画に投稿した以下のビデオをご覧ください。
私も、このビデオを見たとき「???」という感じだったので、安西さんの自宅スタジオにお邪魔して、これがどんなシステムになっているのかを伺ってきました。実は安西さんのお宅は、私の家から徒歩3、4分のところにある、ご近所さん。以前も「Mellotronを24/96で収録して再現したSuper Manetronの開発舞台裏」という記事で取材した際にお伺いしたことがありました。
その安西さんのところに今回のシステムの共同開発者である入鹿山剛堂(いるかやまごうどう)さんが打ち合わせでいらっしゃるということだったので、そこに同席させてもらったのです。入鹿山さんは元NTTドコモのエンジニアであり、ポケットボードやシグマリオンなど先進的な機器を開発・設計してきた人物であると同時に、ポケット・ミク開発のキッカケを作った人でもあるのです。そして、昔はTPOで使っていた機材のアナログシンセやシーケンサの改造なども行っていたという方なので、まさに筋金入りのスゴイ人なんですよ。その二人がダッグを組んだというのですから、これは気になります。
どれも気になる面白そうなモノばかりですが、この中でいち早く手を付けたのが21番の「MikCV(ミクシブ)」だったのです。安西さんのブロマガでも「MikCV(ミクシブ=電圧制御初音ミク<仮称>)モジュール構想」として、そのコンセプトが書かれていたのですが、その後の詳細なしに、いきなり動作しているビデオがUPされたのでビックリでした。
ちなみに、このMoog Modular III、世界にも数えるほどしかない貴重な機材なので中古で入手と言っても、そう簡単にいくものではありません。仮に購入できるとしても数百万円以上はするでしょうから、誰でも気軽に使うというわけにはいきません。ただし、このアナログシーケンサを含めたMoog Modular III全体をPC上で再現するソフトとしては、ArturiaのModular V2といったものがあるので、興味のある方は試してみると面白いと思いますよ。
Moog Modular IIIcのアナログシーケンサ部分。各ツマミを使って音程をコントロールする
つまり発生する電圧でポケット・ミクを歌わせているというわけなのですが、どうすればそんなことができるのでしょうか?
ポケット・ミクから電圧入力用の端子をケーブルでひっぱり出している
「ポケット・ミクの内部を開けて、スタイラスのセンシング部分を見てみると、電圧を受けて音程を指定できる構造になっているんです。さすがにMoog Modular IIIのシーケンサの電圧がそのまま受けられるわけではなく、+と-を反転させたり、電圧の幅を変えるなどの仕掛けが必要でしたが、変換器を通すことでアナログのまま制御できるようになりました」と話すのは入鹿山さん。
「中段のシーケンサの信号をMIDIに変換した上で、これを元にして歌詞を指定できるようにしました」と話すのは安西さん。
「まずDIGI-ATOM 4800という昔の機材を使ってCVをMIDIに変換します。その上で、音程ごとに『ニ』、『コ』、『は』、『ちゅ』といった具合に歌詞を割り当てるのです。歌詞は単純なノート信号でコントロールすることはできないため、これをいったんLogicに読み込ませた上で、歌詞を表現するMIDIエクスクルーシブデータに変換。さらに、そのMIDIエクスクルーシブデータをUSB経由でポケット・ミクに流し込むことで、Moog Modular IIIのツマミを動かすことで、歌詞を変えられていたわけですね。
お二人の説明を元に図で表すとこんな感じでしょうか……。“壮大なスケールで行われた、世にもバカバカしい実験”ともいえる(!?)安西さん、入鹿山さんによるMikCV。今後、アナログシンセサイザ、アナログシーケンサの開発、制作がどうなっていくのかを、楽しみに、そしてのんびりと注目していこうと思っています!
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