アナログシンセ1系統+デジタルシンセ2系統+ドラムマシンという構成で、ボコーダー機能を装備し、シーケンサも内蔵してこの価格ですから、発売当初は予約殺到でなかなか入手しづらそうですね。製品内覧会を受けてのJD-Xi記事は他メディアでもいろいろと取り上げているようですが、DTMステーションとして気になるのは、これをPCと接続するとどのように見えて、どう活用できるのか、という点。そこでちょっとマニアックではありますが、DTM的視点から見てJD-Xiはどんな機材なのか見ていくことにしましょう。
個人的にもかなり興味のある機材なので、製品内覧会後、「発売前に少し貸してもらえないか?」と打診してみたのですが、「まだプロトタイプの数が少なく、イベントでの展示なども頻繁にあるので、製品発売までは難しい」とのお返事。とはいえ、やはり試してみたかったので、Roland社内に機材が置いてある日に自分のデスクトップPCを持って伺い、JD-XiとUSB接続をしていろいろと試してみたところ、かなりよくできた機材であることが見えてきました。そうMIDIでのコントロールはもちろん、アナログシンセの音も含めてJD-Xiのサウンドをノイズレスでレコーディングすることができ、PCのDAWとJD-Xiの同期演奏も可能など、何でもアリという仕様なんですよ!順番に見ていきましょう。
鍵盤の上に並ぶ16個の光るパッドを利用してTR-808風なリズム入力が可能であったり、本体に標準装備されるグースネック・マイクを使うことで、ポリフォニックのデジタルシンセにおいてボコーダー効果を得ることも可能です。またこのマイクを使用することで、ボコーダーだけでなく、内蔵エフェクト機能によってさまざまなボイス処理も可能で、オート・ピッチによるロボットボイスの実現なんかも楽しいところです。
さて、そのJD-Xiのリアパネルを見ると、USB端子があり、これをWindowsでもMacにでも接続することが可能になっています。出荷初期状態ではMIDI Genericモードとなっているので、ドライバをインストールすることなく、即MIDIデバイスとして認識してくれます。これにより、DAWを起動すれば、MIDIの外部音源としてJD-Xiを鳴らすことが可能だし、JD-Xiを演奏すればそのMIDI信号がPCへと送られるため、リアルタイムレコーディングを行うことも可能となります。
しかし、JD-Xiが本領を発揮するのはGenericモードからVenderモードへと切り替え、PC上にJD-Xiのドライバを入れてからなのです。これによって、PCからはJD-XiがMIDIだけでなくオーディオインターフェイスとしても見えるようになり、さまざまな連携が可能になるのです。そこで、ここから先は、このドライバを入れて接続した状態で見ていくことにしましょう。
JD-Xiのシステム構成。4パートある音源部の1パートとしてアナログシンセが位置付けられている
デジタルシンセ・パートとしては2つ分で同時発音数が64、またドラム・パートも単体で同時発音数64となっています。それとは完全に独立する形でモノフォニックのアナログシンセがあるので、合計すると最大同時発音数は129という計算になるわけですね。JD-Xiのシーケンサを使うことでも、4パートを同時に鳴らすことは可能ですが、やはりPCからコントロールすると圧倒的に扱いやすくなりますね。
またJD-Xiの設定画面を見てみると「Tx Edit Data」というものがあるのですが、これをONにするとJD-Xiのフィルターやエンベロープ、LFOなどのパラメータを触ったデータが、そのままPCへと送られるようになります。つまりこれをリアルタイムレコーディングすれば、そのままコントロールチェンジ情報としてMIDIトラックに記録されていきます。その後、これを再生してJD-Xiに送り返せば、そのときのノブやボタンの動きを再現することができるのです。
まあ、ここまではMIDI接続でもできる当たり前のことではあるのですが、ここで1つチェックしておきたいのはMIDI 3chのアナログシンセにおいても、ノート信号だけでなく、フィルター、アンプ、エンベロープ、LFO……といった情報をすべてやりとりできるということです。音を聴いてみると、確かにアナログ独特の太いサウンドを出す音源であり、中枢部はアナログ回路でできているけれど、そのアナログ回路をコントロールする部分はデジタルで制御しているため、MIDIでのやりとりが可能となっているのです。
KORGやArturiaのアナログシンセもノート信号だけではUSBからMIDIコントロールが可能になっていますが、JD-Xiにおいてはほぼすべてのパラメータを記録できるというのは、非常に扱いやすいですね。そうした仕組みであるからこそ、JD-Xiではアナログシンセの音色もプリセットがあり、自分で作った音色も記憶できるようになっているんですね!
さて、このMIDI信号のやりとりにおいて、演奏情報だけでなく、同期情報のやりとりができるのも大きなポイントとなっています。ここでやり取りができるのはMIDIクロック。PCのDAW側からMIDIクロックを送出できる設定にしておく一方、JD-XiのSync ModeをMASTERからSLAVEに、またClock SourceをMIDIからUSBに切り替えてシーケンサのプレイボタンをON。
PC側はJD-XiのMIDIポートへMIDIクロックを送出するように設定
この状態で、DAW側をスタートさせると、DAWのテンポに同期する形でシーケンサを動かすことができるわけです。予めカッコいいシーケンスパターンもいろいろ用意されているので、これをPCと連動できるのは楽しいですよ。
Rolandのほかのオーディオインターフェイスと同様、バッファサイズなどの調整も可能
サンプリングレート的には44.1kHz固定とはなりますが、DAWとJD-Xiが接続されることで、お互いのオーディオ信号をデジタルのままやりとり可能になるのです。つまり、JD-Xiから出てくる音をD/Aを介さずに、そのままPCへレコーディングできるため、音質を劣化させることなく、ノイズレスのサウンドで取り込むことができるわけですね。
でも「デジタルシンセやリズムマシンは分かるけれど、アナログ音源はどうなるの?」という疑問を持たれる方も多いでしょう。結論からいうと、これも高品位なサウンドでレコーディングできてしまうんですよ。というのも、JD-Xiはオシレーター部分、フィルター部分は確かにアナログ回路でできているけれど、アンプ、エンベロープなどはデジタル回路で構成されているため、出口部分ではデジタル化しているために、PCへもこのデジタル化された音を取り込むことができるわけです。
実際に音を聴いてみると分かるのですが、アナログシンセは確かにアナログの音としてレコーディングされているんですよね。これは非常に手軽だし、面倒な配線をすることなく、キレイに録れるというのは大きな魅力だと思いますよ。
SONARで録音した状況。このデータをJD-Xiから再生させることで、D/A部分も含め、JD-Xiそのものの音を再現できる
つまり、PC側でオケを鳴らし、それに重ね合わせる形でJD-Xiをプレイするといったことが可能になり、この際にオーディオインターフェイスは不要だし、ミキサーを介すことなく、JD-XiのみでOKというのはとっても手軽です。ライブを行うのに、ノートPCとJD-Xiだけを持ち込んで……といったことも気軽にできそうですね。
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