Moog Sound Studioで遊ぶ、ディープで楽しいアナログ・セミモジューラー・シンセの世界

すでにご存じの方も多いと思いますが、先日MOOGからMoog Sound Studioなる楽しそうなアナログシンセが発売されました。いくつかのバリエーションがありますが、その最上位モデルとなっているのがMoog Sound Studio: Mother-32 & DFAM & Subharmoniconという3種類のセミモジュラーをセットにしたもの。実売価格は税込みで255,200円と可愛いくはないお値段ではありますが、パッと見でかなり引き付けられます。

現在MOOG製品を国内代理店として扱っているのは、ある意味MOOGの競合でもあるKORGの輸入部門=KID(KORG Import Division)。そのKORGにお願いして、少し製品をお借りして試してみたところ、想像していた以上にディープで楽しいシンセの世界でした。個人的な印象でいうと、小学校のころに遊んでいた学研の電子ブロックを彷彿させる楽しさがあったのです。もちろん、現在のDAWと連携させることもでき、DTMとの親和性もバッチリ。ディープ過ぎる世界でもあるので、その触りの部分をちょっとだけ紹介してみたいと思います。

MOOGのセミモジュラー・シンセの3台セット、Moog Sound Studioを試してみた

3種類のアナログシンセがセットになった製品

いまやソフトシンセ全盛の時代になっており、ハードがなくても自由自在に音作りは可能ですが、やはりアナログシンセならではということが数多くあるのも事実。そしてシンセの動作を直感的に理解する上でも、ソフトシンセよりアナログシンセのほうが、より優れています。

でも、そんな理屈はともかく、目の前にあって、ワクワク、ドキドキするのが、このMOOGのセミモジュラー・シンセ、Moog Sound Studioなんです。かなり物々しいほどに、銀色に光るノブやスイッチが並び、そこかしこに赤いLEDがチカチカしている様は、大昔に感じた近未来感というか、憧れを思い起こさせるんですよね。

少し具体的に説明してみましょう。このMoog Sound Studio: Mother-32 & DFAM & Subharmoniconは、その名の通り、

Mother-32(アナログベース、リード系シンセ)
DFAM(パーカッションシンセ)
Subharmonicon(サブハーモニック和音シンセ)

という3つの異なる種類のセミモジュラー・シンセで構成されています。いずれも個別製品としても販売されている独立したアナログのセミモジュラー・シンセであり、単体のシンセとしても使えるものです。

3つそれぞれに、まったく性格の異なるシーケンサが搭載されており、それぞれで自動演奏させることもできるし、SYNC信号をパッチングすることで、3つを同期させて演奏することも可能というものです。

結構大きな段ボール箱にはいった製品が到着

コンパクトなモジュラーシンセだと思って、届いた荷物の大きさにちょっとビックリ。結構大きい段ボール箱を開けてみると、その中に3つのシンセが入っています。これらを取り出してみると、さらに中にはいっぱいものが詰まっているんですね。

箱の中には3つのシンセのほかにもさまざまなものが入っている

まずは説明図にしたがって組み立てる

これらを組み立てて、1つのシステムにするというのが最初の作業。といっても簡単なネジ留めをするだけなので、同梱されている絵本のような図を見ながら15分ほどで完成。

組み立て図面を見ながらネジ留めしていく

またこの製品には、3つのシンセに電源を送るとともに、3つのシンセからの音をミックスしてヘッドホンで聴くことを可能にするステレオサミングミキサーなるものが同梱されているので、これを接続。

電源の分配機能も装備したステレオ・サミング・ミキサー

あんまりよくわからないけど、とりあえず同期信号をパッチングしてみて、簡単に音を鳴らしてみたビデオがこちらです。

どうですか?まあ、まともな演奏といえるかどうかはともかく、ちょっと動かしただけで、こんな感じで音が出るって、なかなか楽しいですよ。

3種類のシンセの概要を紹介

ごくごく簡単に3つのシンセがどんなものなのかを紹介すると、一番上にあるDFAM(Drummer From Another Mother)はドラム音源。ドラムといっても、サンプリングとかは一切なしで、オシレーターとノイズジェネレーターなどを組み合わせ、フィルタで音を作っていくというもの。ここにシーケンサも搭載されているのですが、下に並んでいる8×2段のノブでシーケンスパターンを組んでいきます。上の8つがピッチ、下の8つがベロシティ。だから、とってもアナログで曖昧なドラムマシンとなっているんです。

ドラムマシン的なシンセサイザ、DFAM

真ん中にあるMother-32はベースシンセやリードシンセとして使うアナログシンセの王道的なもの。矩形波とノコギリ波の切替ができるVCOが1つと、VCF、LFO、EGが1つずつというすごくシンプルだけど、かなり太っとい音がでる、まさにMOOGなシンセです。EGもアタックとディケイのノブ、サステインのON/OFFがあるだけで、音作りは触ればすぐに分かります。

メインシンセともいえるMother-32

ユニークなのはかなり強力なシーケンサが搭載されていること。下に13個並んだボタンは鍵盤として演奏できるようになっていますが、これを使ってシーケンスパターンを打ち込んでいくんです。もちろん休符の設定などもでき、いろいろなパターンを作れることができます。このシーケンサ部分はデジタルで構成されているだけに、作ったパターンを保存することはできるようになっています。

そして一番下の段にあるSubharmoniconは、またちょっと特徴的なシンセになっています。音源的にはVCO1、VCO2と2つあり、それぞれメインのVCOに加えて2つずつのサブオシレーターが搭載され、トータル6つのオシレーターで構成されたシンセ。これによって、和音を出すことができるようになっているんです。まあ、和音といったって、ポリフォニックで演奏するのとは違い、VCO1側で3音同時、VCO2側でも3音同時にオシレーターが鳴るというだけなんですが、これをどう使うかはアイディア次第ですね。そのあとにフィルターやEGがあるといったシンセですが、この和音の演奏を司るのが左側にあるちょっとユニークなシーケンサです。

2VCOで和音も鳴らせ、ポリリズムでのシーケンスが可能なSubharmonicon

見るとわかる通りSEQUENCER 1、SEQUENCER 2とそれぞれ4ステップの独立したシーケンサになっており、SEQUENCER 1がVCO 1、SEQUCECER 2がVCO 2をコントロールする形になっています。しかもその下には4つのクロックが用意されており、それらを組み合わせることによってポリリズムでの演奏が可能になるという、頭が混乱しそうなシーケンサなんです。

いずれのセミモジュラー・シンセも一瞬見ただけだと、何がどうなっているのかさっぱりわからないのですが、適当にノブやスイッチを動かしていると、30分もあればだいたいの動きが理解できるようになると思います。

ド素人でも冊子を見ながら図の通りに設定すれば音が出せる

もっともシンセについて、まったく知らない人だと、もう少し時間がかかるかもしれませんが、そうした人のため、さらには初心者に限らず、中上級者にとっても、かなり勉強になるユニークな冊子が付属しているのがMoog Sound Studioの魅力の一つです。たとえばEXPLORATION PATCHBOOKという冊子を広げてみると、音作りについて、数多くの例が図で示されているんです。

ガイドブック通りに配線しパラメータを設定すると、その音が再現できる

つまりどのノブをどの位置にするか、パッチケーブルをどこからどこに接続するのかが絵で示されているので、何もわからなくても、この図の通り設定していくだけで、音作りができ、演奏ができるようになるんです。これがなんとも電子ブロック的で、初めて触ったのに懐かしい気持ちにしてくれるんです。分かる方、いらっしゃるでしょうか?理論も仕組みも全く分からなくても、絵の通りに組み立てればラジオになったり、アンプになったりする電子ブロックと似た匂いなんですよね。

学研の電子ブロック(左)をなんとなく想起させるMoog Sound Studio

正直なところ私もモジュラーは得意ではなく、何と何を接続すると、どういう効果が得られるのか、まったくピンと来ないんです。言われているとなるほど…と思うけど、どうすればいいか全然思い付かないんです。でも、この冊子を見て、その通りに接続すると、ちゃんと音が出るので、それを確認しながら、どうなっていくかを考えていくのも面白いところ。

ちなみに、本体内に入っている冊子はすべて英語となっていますが、間もなく日本語化したものがKIDのMoog Sound Studioのサイトからダウンロードできるようになる模様です。実際、先行発売されていたMother-32とDFAMの組み合わせや、SubharmoniconとDFAMの組み合わせにおいては、すでに日本語化されたものがダウンロードできるようになっており、これらもそのまま活用できるので、まずはこれらから試してみてもよさそうですね。

すでにSubharmoniconとDFAMの組み合わせの冊子は日本語化され、PDFで配布されている

カードゲーム感覚で音作りを楽しめる付録も

この冊子に加え、もう一つユニークな付録としてCircuit Connections Synth Explorationなるトランプのようなカードゲームが用意されています。箱の中にはトランプ同様52枚のカードが入っているのですが、「旅を楽しみながら自分のペースでシンセサイザーを探求することができる」というゲームになっているのです。

トランプのような52枚のカードが入ったCircuit Connections Synth Exploration

カードを適当に切って並べると、パッチ接続が表示される形になっており、これにしたがってパッチングしていくことで、音が鳴らせたり、鳴らせなかったり……というもの。MOOG社内でシンセについて熟知している人達が作ったゲームだそうで、このランダムな接続から面白い発見ができるのだとか……。

Circuit Connections Synth Explorationのカードを並べてパッチングを決めていく

MIDIを介してDAWとの連携も

さて、そんなMoog Sound Studioですが、これまで見てきた通り、完全アナログシンセであり、DAWが付け入る隙もなさそうにも思えます。実際、ここにはUSB端子もなければ、これをコントロールするためのソフトもないし、ライブラリアンなども皆無ですから。でもよく見てみると、Mother-32の左下にはMIDI INがあり、SubharmoniconのパッチエリアにもMIDI INがあります。これらを活用することで、DAWからコントロールすることも可能になりそうなので、試してみました。

Mother-32に装備されているMIDI IN端子

最近はMIDIもUSBでやり取りするケースがほとんどなので、MIDI端子やMIDIケーブルを使う機会も減りましたが、MIDI端子を持ったオーディオインターフェイスはいろいろあるので、DAWと連携するのであれば、そんなオーディオインターフェイス搭載のものを使うのが手っ取り早いですね。たとえば、ArturiaのMiniFuse 2はコンパクトながらMIDI端子を装備しているので、これを使ってみました。

MiniFuse 2のMIDI OUTをMother-32のMIDI INと接続

MiniFuse 2のMIDI OUTとMother-32のMIDI INをMIDIケーブルで接続した上で、DAWからMIDIのノート情報を送ってみました。そうMIDIトラックの出力先をMiniFuse 2にすればいいわけです。これでシーケンサを動作させてもいいし、単純に接続されているUSB-MIDIキーボードを弾けば、しっかりMother-32が鳴ってくれます。もっともMother-32はモノフォニックのシンセですから、和音を弾いても単音しか鳴りませんが、完全にDAWの配下にある音源として動作してくれるわけです。

DAWのMIDIトラックの出力をMiniFuse 2にすればOK

同様にSubharmoniconのMIDI INにも付属の変換アダプタを介してMiniFuse 2のMIDI OUTを接続することでこちらも別途コントロールすることができました。ただ、Mother-32とSubharmoniconの両方を同時に動かすとなると、もう一つMIDI出力が必要となります。もし手元にもうひとつMIDI搭載のオーディオインターフェイスがあれば、それを接続してもいいし、なければUSB-MIDIアダプタは5,000円程度で入手できるので、そんなのを購入してもいいかもしれません。

Subharmoniconは右のパッチエリアにMIDI INがあり、付属のアダプタでMIDI端子に変換

このMIDIのノート信号でコントロールするだけだと単純にMoog Sound Studioを音源として使うだけで、面白みが少ないかもしれません。やはりMoog Sound Studioの魅力はそれぞれのセミモジュラー・シンセに内蔵されているシーケンサとの組み合わせ。ここで紡ぎだされるサウンドをDAWと連携するのであれば、やはり同期が必要となってきます。もちろん、そうした同期も可能です。Mother-32でもSubharmoniconでも、MIDIクロックに対応しているので、DAW側からMIDIクロック信号を送るだけで、DAWのプロジェクトと同期してくれるのです。たとえば、Cubaseであればトランスポートメニューにあるプロジェクト同期設定を見るとSend先タブというものがあります。このMIDIクロック出力先として利用するMIDIポートを選べばOKです。

Cubaseの場合、プロジェクト同期設定のダイアログでMIDIクロック出力先を設定

同様にStudio Oneの場合はオプションの外部デバイスから定義していきます。新規インストゥルメントを追加する形にして、MIDIクロックを送信にチェックを入れ、MIDIポートを指定すればいいのです。

Studio Oneの場合、新規インストゥルメントのデバイスを追加する形でMIDIクロックの出力にチェック

この同期の場合はMother-32、Subharmoniconそれぞれ個別にMIDI接続するのではなく、片方に接続した上で、あとはCLOCKのパッチなどを使ってDFAMも含めて連結していけば、3台ともDAWと同期させることができますね。

なお、このようにMIDIノートでコントロールしたりMIDIクロックで同期させたとしても、Moog Sound Studioからの出力をDAWの作品内に取り込めるわけではありません。これをDAWで生かすためには、Mother-32やSubharmonicon、そしてDFAMのオーディオ出力をオーディオインターフェイスに接続してオーディオ録音していく必要があります。3つのセミモジュラー・シンセは個別にオーディオトラックに録音していったほうが、あとでバランス調整をしたり、エフェクトをかけていくのに便利なので、前述のステレオサミングミキサーは利用せず、直接オーディオインターフェイスに接続するのがいいですね。もしMiniFuse 2など2chの入力しかない場合は、まず最初にMother-32とSubharmoniconのトラックを録音し、その後、改めてDFAMを接続しなおしてもう一度録音する…という手順にするのがいいと思います。

Moog Sound Studioの各モジュールからの出力をオーディオインターフェイスの入力に接続してレコーディングしていく

以上、ごく簡単ではありますが、MOOGのアナログ・セミモジュラー・シンセ、Moog Sound Studio: Mother-32 & DFAM & Subharmoniconについて紹介してみました。やはりMOOGのホンモノのアナログシンセだけに、安いものではありませんが、一生モノのアナログシンセとして持っておいて損のない機材だと思います。

【関連情報】
Moog Sound Studio: Mother-32 & DFAM & Subharmonicon製品情報

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