全シンセユーザー、必携! シンセのためだけに開発されたオシロスコープ、KORG NTS-2が発売開始。開発者にその面白さを聞いてみた

2022年5月に発表されていたので、すでにご存じの方も多いと思いますが、KORGがコンパクトなオシロスコープ、NTS-2 oscilloscope kit + PATCH & TWEAK with KORG(メーカー希望小売価格、税込価格30,800円)がいよいよ発売となりました。これはKORGのキット専用ブランド、Nu:Tektの製品として登場するもので、簡単なネジ留めで組み立てることができるコンパクトな機材。一般的なオシロスコープと異なり、シンセサイザ専用に設計されたものだけに、シンセユーザーにとって非常に扱いやすく、またとても便利に活用できる小さなアイテムとなっています。

またこのオシロスコープとともに、デンマークのシンセサイザ専門の出版社、Bjooksが出した「PATCH &TWEAK with KORG」という書籍がセットとなっているのもユニークなところ。この本にはKORGとARPの歴史から、シンセサイザーのパッチングテクニック、パフォーマンスの秘訣から、もちろんNTS-2をどのように利用するかの活用法まで細かく解説された、初心者から上級者まで楽しめる内容となっています。英語の本ではありますが、図版や写真がいっぱいなので、英語が苦手な人でもスラスラと読んでいくことができるはず。そのNTS-2 oscilloscope kitを発売前にチェックするとともに、この製品の企画・開発担当者に話を聞くことができたので、インタビューを通じてNTS-2とはどんな製品なのか詳しく紹介していきたいと思います。

※2023.6.24追記
NTS-2 oscilloscope kit + PATCH & TWEAK with KORGは発売早々に完売となっていましたが、6月18日よりNTS-2単体での販売が開始されました。

KORGがシンセサイザ用に開発した専用のオシロスコープ、NTS-2

NTSシリーズの前作であるNTS-1については以前「1万円で買えるKORGの小さなシンセ・NTS-1に、世界中で開発されるオシレータやエフェクトを組み込んでみた」という記事で紹介したり、「無料で使えるWeb版のシンセサイザも登場!? 世界中のプログラマに支持される1万円のKORGのミニシンセ、NTS-1の実力」という記事で開発者インタビューしました。

機種リーダー開発担当の三浦和弥さん(左)と、製品企画担当者であるマルチネスガルシア・イボンさん(右)

今回、NTS-2のお話を伺ったのはNTS-1の開発リーダーでもあった三浦和弥さんと、製品企画担当者であるマルチネスガルシア・イボンさんのお二人です。

--NTS-1は、ユーザーがプログラミングすることで発展させることができる機材だったので、NTS-2も結構難しい機材なのかな……と思ったのですが、そんなに難解なものではなさそうですね?
イボン:今回のNTS-2はプログラミング的要素はなく、キットとしてもネジ留めして組み立てるだけなので、誰でも簡単に使うことができます。大きさ的にはNTS-1と同サイズになっており、全シンセサイザユーザーに、ぜひ使っていただきたいオシロスコープになっています。

NTS-2は組み立て式のキットとなっているがハンダ付けなどは不要で、ネジ留するだけで簡単に作れる

--確かにシンセユーザーにとってオシロスコープは有用なものですが、「なぜ楽器メーカーのKORGが測定器を?」と不思議に感じる面もあります。この製品を作ることになった経緯を教えていただけますか?
イボン:今から4年ほど前、モジュラーシンセのイベントであるTokyo Festival of Modularで、Bjooksの創業者であるKim Bjørnさんとお会いしたのが、そもそもの発端です。ちょうど同社のヒット作であるPUSH TURN MOVEに続く書籍、PATCH & TWEAKを出したばかりのときでした。シンセのさまざまなデザインと音のデザインの関係性を突き詰めながら、写真や図で紹介していくすごく楽しい本でした。せっかく日本に来ているタイミングだから、とKORG本社にKimさんを誘って、この本を使ったセミナーのようなものを社員向けに実施したんです。シンセの信号のルーティングなどは初心者にもすごく分かりやすく、「だったらKORGのシンセに特化した本を作ったら面白いよね」という話で盛り上がったんです。

付属の「PATCH &TWEAK with KORG」の中にはKim BjørnさんをKORG社内に招いたときの写真も掲載されている

それから、Kimさんとは定期的にやり取りをする中、「単に書籍だけでなく、もっとシンセに対する理解が深まる補助的なツールがあったらいいよね」というアイディアが出てきました。それが今から2年ほど前でしょうか…。となると、当然オシロスコープやシグナルジェネレーターという話になり、このNTS-2の開発になっていったのです。Kimさんにはアドバイザーとして加わってもらうとともに、試作機の段階から使ってもらって、アイディアなどをもらうとともに、それを盛り込んでいったのです。

NTS-2のパッケージの中に「PATCH &TWEAK with KORG」の書籍も入っている

--2年前だと、もうNTS-1は出た後のタイミングですかね?もっとも、オシロスコープというと、最近は中国製の安価なデジタルオシロスコープも簡単に入手できるようになっているので、どう差別化するか、ですよね。
三浦:そうですね。NTS-2も機能の面では、普通のオシロスコープと大きく変わりませんが、インターフェイスが特徴となっています。一般的なオシロスコープではプローブと呼ばれるケーブルを用いて測定するのですが、シンセの信号を測定するとなると、端子を変換したり、分岐したりして、使う必要があり、扱いにくい面があるのも事実です。そこで、NTS-2ではステレオミニで直接信号を入力することができ、スルーアウトの出力を持つ仕様とすることで、ここから音をモニタリングできる、という特徴を持たせました。

NTS-2のリアにはステレオミニの入力が2つ、ステレオのスルーが2つ、モノラルでの出力が2つの端子が用意されている

--なるほど!信号線にプローブを使って引っ掛けるのではなく、ステレオミニで直接接続できるのはすごく便利です。しかも、その音をそのまま聴けてしまうんですね!
三浦:インプットが2つあり、どちらもステレオになっているため、最大で同時に4つまで信号をチェックすることができます。またCVを扱う場合にはCVの形を確認しながら接続することができ、それを音に反映させることができるので、使いやすくなっていると思います。

ステレオミニx2で計4chの信号を同時に表示させることが可能

--スルー端子という発想がいいですね。そんなオシロスコープないですから。一方、そのスルーとは別にアウト端子もあるんですね?
三浦:アウトも2つありますが、こちらはモノラルです。可聴域のサイン波、矩形波、ノコギリ波などの波形出力ができるのはもちろん、LFO、トリガー、エンベロープ……などシンセに必要な各種信号を出力することができます。電圧も±5Vの範囲で出力することが可能です。
イボン:FFT機能を持っていたり、KORGなのでやはりチューナー機能も搭載しているなど、シンセにとって必要なものが一通りそろっているんです。まさにシンセ用十徳ナイフといった感じですね。

波形表示もさせるチューナー機能も装備

--このFFTもオーディオ用のFFTとはちょっと違った感じで、シンセの信号を見る上で分かりやすい表示ですよね。一方で、端子を見てみると、アナログの入出力のほかに、USB Type-C端子もありますが、これでPCとデータのやり取りをする?
イボン:いえ、このUSB端子は単に電源供給用です。将来のファームウェアアップデート用に使うことにはなると思いますが、現時点ではここから5Vを受けてNTS-2が動作する形です。なお、これとは別に単3電池2本で駆動できるように、裏面には電池ボックスも装備しています。

裏面には単3電池x2が入る電池ボックスが用意されている

--測定器は普段からいろいろ使っていると思いますし、普段からシンセを開発している三浦さんからすると、開発自体はそれほど難しいものではないのでしょうか?
三浦:そうですね。基本的にはそれほど難しいものではないのですが、インプットは±10V、アウトプットは±5Vとレンジが広いので、いろいろ工夫はしています。ヘッドホンレベルの小さな信号も見たいし、大きいCV信号もチェックする必要がある。コストを抑えつつ、小さい信号でも埋もれないようにするために、内部でゲインの切り替えをハードウェア的に行っているんです。非常に小さい信号を見ようとすると、オシロスコープ自身が持っているノイズに埋もれてしまう可能性があるので……。確かに高級なオシロスコープであれば、こうしたゲインの切り替えを内部で行っているので、珍しい手法ではありませんが、限られた部品の中でどううまく切り替えを行うかなど工夫はしました。

--考えてみれば、MonologueやMinilogueでも、オシロスコープ機能搭載してますもんね。あの波形を見るだけで、グッとくるところもあります。
三浦:そういう意味でも、オシロスコープ自体は社内的にも珍しいものではないのですが、実はカラーディスプレイはウチではあまり使ってこなかったので、どうするのがいいのかは、試行錯誤を重ねました。ディスプレイ性能をフルに発揮させるにはGPUが欲しいところですが、GPUを使わずに、しかも安価なCPUだけでどこまで行けるか、負荷を最小限にして約50Hzまでリフレッシュレートを上げるなど、ソフト設計者にもいろいろ工夫を重ねてもらっています。

--ほかに、一般的な計測用オシロスコープとNTS-2の違いってありますか?
三浦:たとえば、スクロールモードというのは、ほかのオシロスコープにはないと思います。一般的には信号が左から右へ流れていき、また左に戻る形ですが、「スクロールさせたら見やすいのでは?」とソフト担当者から意見が出たので、それを実装してみたところ、低周波を多く扱うシンセ用として非常に見やすいものになったと思います。

FFTを見ると倍音構成がくっきりと表示されており、見やすい形になっている

--大昔の緑のブラウン管のオシロスコープを使っていた世代としては、カラフルなオシロスコープに少し違和感を感じるのも事実です。
三浦:シンセの出力をオシロスコープにいれてリサジュー表示させるという人は多いと思います。また、昔からリサジュー表示をしてきた人からすると、やはり青緑がいいという声が多くあるので、もちろんNTS-2でもリサジューは青緑での表示にしています。またFFTも同様に青緑にして、統一感を出しています。

リサジューは青緑の配色を使っている

イボン:そうした使い方なども含め、「PATCH &TWEAK with KORG」の書籍で詳しく紹介しているので、ぜひその辺も併せて利用いただければと思います。

「PATCH &TWEAK with KORG」にはNTS-2の使い方解説もしっかり掲載されている

--MODEのメニューを見るとSCOPE、WAVE、FFT、TUNER、GLOBALとなっていますが、SCOPEがオシロスコープということですよね?
イボン:その通りです。そしてWAVEがオシレーター、FFTが入力された信号を周波数解析するFFTで、TUNERがチューナー、GLOBALは全体的な各種設定となっています。単に測定するだけでなく、このWAVE=オシレーターによって信号を出すことができるのもNTS-2の大きな特徴であり、シンセサイザーユーザーにとって便利なものです。VCFやエフェクターの特性を確認する際にリファレンス信号として扱うことができ、この際、周波数を指定して発振させるだけでなく、MIDIノート番号で指定することもできるようになっています。そのため、ドの周波数、レの周波数などと計算しなくても、一般的な測定器とは違い簡単に扱えるのもシンセユーザーにとってはわかりやすいと思います。また、トリガーを出したり、エンベロープを生成することもできるので、シンセサイザの動作チェックなどにも有効利用できます。

2ch独立して出力可能なWAVE機能

--まさにシンセのための十徳ナイフ的ツールとして、便利にできているんですね。見た目もカッコいいですしね。
三浦:企画立案時にデザイン担当から、「これやっぱり、側板付けたいね。作っていい?」と言われたんですよ(笑)。NTS-1と同じデザイン担当なんですが、NTS-1ではコストバランスが合わず実現できなかったこともあって…。どうなるんだろうと思って、できてきたのがこれで、感動しましたね。ネジで脱着可能となっていますが、側板を付けることで好みに応じて2種類の角度を付けることができるので、扱いやすくなると思いますよ。

付属の側板を取り付けることで、斜めに設置することが可能になる

--まさに全シンセユーザー必携のオシロスコープですね。私も1つ購入したいと思います。本日はありがとうございました。

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