16ビットゲーム機、メガドライブのサウンドが蘇る!4オペFM音源+PSG+PCMのGrooveBox、LIVEN MEGA SYNTHESISが誕生

日本の電子楽器メーカー、SONICWAREが、またユニークなマシンを発売します。今回登場するのは、セガが1988年に発売した世界初の16ビットゲーム機、メガドライブMEGA DRIVE)のサウンドを再現するマシン、LIVEN MEGA SYNTHESISです。メガドライブにはヤマハの4オペレータ/8アルゴリズムのFM音源、YM2612(OPN2)が搭載されるとともに、PSG音源であるTIのSN76489が搭載されていましたが、それをそっくりそのまま再現するとともに、シーケンサやエフェクトなどを搭載して1つのグルーヴボックスに仕上げたものです。YM2612には8ビットのPCM音源も1chのみ利用できる形になっていましたが、それもそっくり再現しています。

このLIVEN MEGA SYNTHESISには、数多くのプリセット・サウンドやパターンが収録されていますが、「イース」や「ベアナックル」、「世界樹の迷宮」などで知られるゲーム作曲家、古代祐三(@yuzokoshiro)さんによるオリジナルのプリセット・サウンドが32種類と、スペシャル・パターンが8種類搭載されているのも大きなポイント。まさにあのときのサウンドが、リアルに蘇ってくるのです。出荷は1月11日~で価格は29,800円(税込)と手ごろな価格なのも嬉しいところ。ただし、発売当初は少量生産なため、即注文しないとすぐには入手できないようです。そのLIVEN MEGA SYNTHESISの実機を試すとともに、古代祐三さんにもオンラインインタビューできたので、その内容を紹介していきましょう。

SONICWAREからメガドライブのサウンドを再現するLIVEN MEGA SYNTHESISが誕生

SONICWAREがメガドライブのサウンドを再現

SONICWAREは東京・池袋にある日本のベンチャー楽器メーカー。ユニークな楽器を次々と生み出していますが、「どんな音でもイカしたローファイ・サウンドに仕立て上げるレトロ・サンプリング音源、LIVEN Lofi-12発売開始」、「チップチューンからFMサウンドまで、日本のベンチャーSONICWAREが開発したガジェット型シンセ、LIVEN 8bit warps誕生」などLIVENシリーズや、「ゲームボーイ風小型サンプラー、SmplTrekの詳細が明らかに。小さいながら楽しくスゴイ機能が満載」という記事で紹介したSmplTrekなど、さまざまな機材を開発・販売しています。

メガドライブを想起するカラーリングになっている

今回発表されたLIVEN MEGA SYNTHESISは、その“MEGA”という名称や、ボディーカラーからも分かるとおり、当時次世代機といわれ大ブームになったセガの16ビットゲーム機、メガドライブのサウンドを再現するシンセサイザであり、シーケンサとなっています。

まずはそのサウンドをちょっと聴いてみてください。

すごい懐かしさがこみ上げてきますよね。

このメガドライブに搭載されていたのは4オペレータ/8アルゴリズムのFM音源と、まさにチップチューンサウンドであるPSG音源、それに8ビットのPCM音源です。6オペレータ/32アルゴリズムのDX7を再現するハードウェアは各社からいろいろ出ていますが、4オペレータのFM音源はヤマハがreface DXを出しているものの、ちょっと珍しいところだと思います。

より分かりやすい操作性を実現させるため、ワンパラメーター/ワンノブとなっている

メガドライブ搭載のYM2612とSN76489を正確に再現

さらにもう少しマニアックにメガドライブの音源部分を深堀してみましょう。世界初の16ビットゲーム機であったメガドライブには2つの音源チップが搭載されていました。ひとつはYAMAHAのYM2612、もう一つはTexas InstrumentsのSN76489というものでした。

YM2612は、一般にはあまり馴染みのない音源チップではありますが、「YM2203=OPNの上位版のOPN2だ」というと、なるほど、と思う方も少なくないと思います。そうPC-8801mkIISRをはじめとするPC-8801シリーズや、富士通のFM77シリーズなど、多くの8ビットパソコンに搭載されていたYM2203の上位版のFM音源なのです。

基本的なパラメータ構成などはほぼ同じながら、YM2203が3音ポリだったのに対し、YM2612は6音まで出せる形になっていました。しかも6ch部分が8bitのDACになっていたため、6chのFM音源を殺す形にはなりますが、PCMも鳴らせるという画期的なものとなっていたのです。

そのDAC部分のコントロールをメガドライブではZ80という8ビットCPUを使って行っていたのですが、このLIVEN MEGA SYNTHESISもそこを正確に再現。具体的にはZ80でのPCM再生の更新周期を再現する形となっているのです。また単にDACを使うだけでなく、サンプリング(8bit – 12kHz/24kHz/48kHz x 96個ストア)も可能になっているので、8ビットサンプラーとしても使うことができるわけです。

ちなみにLIVEN MEGA SYNTHESISではPCM機能を使っても、FM音源を5chに減らす必要はなく、6chのまま使える上位互換となっています。

一方で、YM2203に搭載されていたPSG(SSG)音源はYM2612には入っていませんでした。そこでセガはそれに匹敵する音源としてSN76489というものを搭載したのです。このSN76489はYM2203のPSG音源の元になったGI社のAY-3-8916との互換性はないため、正確にはPSGとは言わない、という人もいるみたいですが、矩形波のチップチューン音源という点では、ほぼ同等です。ただし本来のPSGは出力が3chで各chでノイズを出すことが可能、となっているのに対し、SN76489の場合は矩形波x3ch+ノイズ1chという構成になっていること。

こうした点も含め、LIVEN MEGA SYNTHESISはサポートしているようです。

LIVENシリーズとして6トラック・128パターンのGrooveBox機能を装備

でも、LIVEN MEGA SYNTHESISは単に、メガドライブを再現しているというだけではありません。さまざまな点で、2024年のマシンとして作り上げられています。

まずはLIVENシリーズとして、シーケンサというかGrooveBoxマシンとなっており、これで打ち込みをし、曲として仕上げることができます。具体的には以下のように、FM音源3トラック+PSG音源2トラック+PCM音源1トラックの6トラック構成になっており、まさにゲームミュージックを作っていくためのシーケンサになっているのです。

LIVEN MEGA SYNTHESISのトラック・パターン構成

「あれ?さっきの話でYM2612は6音出せるのでは?」という質問がやってきそうですね。このトラックは別にモノフォニックのトラックではなく、普通にポリフォニックで扱えるので、ちゃんとFM音源もPSG音源もフルに使うことができるわけです。

さらにディレイやリバーブ、ディストーションなど、以下の10種類のエフェクトも搭載しているため、リッチな音作りも可能になっています。

Send Delay Insert Delay Reverb
Crusher Distortion Compressor
Low Pass Filter High Pass Filter Isolator
Remix Perforance effect

オーバーレイシートをかぶせてFM音色づくり

FM音源の音作りに関しては、[func]+[FM EDIT]キーを押すことで音色エディットモードに入っていきます。ここからはアルゴリズムを選択したり、4つある各オペレーターごとにレベルやエンベロープの設定、周波数の倍音設定……といったものを行っていく形です。

オーバーレイシートを被せることで、EDITモードに入った際のFM音源のパラメーターを確認できる

そして、この際、LIVENシリーズお得意の、オーバーレイシートを乗せることによって、音作りがしやすくなっています。そう、ここにアルゴリズムやエンベロープジェネレータなどのパラメータが表示されているので、より分かりやすくエディットしていくことができるのです。

FM音源のアルゴリズムは8通り。ボタン切り替えで一発で選択できる

なお、このFM音源、YM2612より精度が高くなっているというのもユニークなポイント。たとえばフィードバックがオペレータ1のみにしか使えないのは同様なのですが、YM2612では0~7の8段階しかなかったのに対し、LIVEN MEGA SYNTHESISでは0~127の128段階になっているなど、より解像度高く音作りができるようになっているのです。

9VのACアダプタ(別売)が利用できるほか、リアに単3電池x6本で駆動させることができる

さらに、当然のことながらDAC性能がメガドライブ当時と比較して現在は大幅に向上しているのでよりHi-Fiな現代的なサウンドが出せるようになっています。とはいえ、ここはHi-Fiなサウンドにするより、当時の音がいい、という人も多いですよね。そこで、LIVEN MEGA SYNTHESISではLEGACYモードというものが用意されています。このLEGACYモードにはさらに3つのモード選択が可能になっています。具体的には

FILTER:音源チップの周波数特性を再現
LADDER:音源チップのDAC部分の挙動を再現
FILTER+LADDER:上記2つの特性を同時に再現

のそれぞれ。どんな音にしたいかによって、モード選択すればいいわけですね。ちなみに、PCM音源はFILTERと4Bbit再生になっています。

ヘッドホン出力、ステレオでのライン出力があるほか、モノラルながら内蔵スピーカーもあり、単体で鳴らすことが可能

変換表を使うことで、過去の資産をそのまま利用可能

以上のとおり、メガドライブのサウンドを忠実に再現できるLIVEN MEGA SYNTHESISですが、中にはYM2612やYM2203の音色データが手元に残っている…なんていう方もいるかもしれませんね。それらを、このマシンで再現させてみたいところですが、ここにはひと手間工夫が必要になる、というのが注意点です。

前述のとおり、パラメータによってYM2612そのものよりもパラメータが高い分解能になっているため、そのまま同じデータを入力してもうまくいかないのです。またFM音源の音作りでもっとも大切なパラメータともいえるオペレータのレベルは、YM2612もLIVEN MEGA SYNTHESISも128段階なのですが、0~127の方向が反転していたり、ベロシティカーブがリニアになっていたりと、ちょっと特性が違う部分があるんですね。

たとえばサステインレベルはYM2612より細かい128段階になっている

これについては、発売日には間に合わないものの、後日SONICWAREが情報を公開するとのことなので、これを待つのがよさそうです。

なお、今回、機材を使わせていただいた中で、SONICWAREに私からお願いしたことも1つあります。それはこれらのパラメータをMIDIからコントロールできるようにしてほしい、という点です。現在は、この本体でコントロールして、音作りをしていくわけですが、もしSYS-EXなどを使って各パラメータをコントロールできるようになれば、PC側で簡単なプログラムを組めば、より分かりやすいエディタが作れるはず。もちろん、そうしたプログラムも一緒に開発してほしいところですが、まずはSYS-EX対応してくれることで、大きく世界が広がりますからね。もちろん、すぐにというわけにはいかないと思うので、今後に期待したいところです。

MIDIの入出力を利用してPCからのコントロールも可能になっている

古代祐三さんのプリセットも32種類も搭載。トータルで352プリセットを収録

そんなユニークな機能を持ったLIVEN MEGA SYNTHESISですが、ここにはもう一つ大きな特徴があります。それは、ゲーム作曲家、古代祐三さんによるオリジナルのプリセット・サウンドが32種類と、スペシャル・パターンが8種類搭載されている、という点。これにより、まさにあのときの音が、ここから出てくるわけです。

古代祐三さんのプリセットサウンドが32音色、スペシャルパータンが8種類搭載されている

さらに、SONICWAREオリジナルのプリセットも古代さんのものとは別に数多く収録されています。昔よく遊んだゲームのサウンドから汎用的に使える楽器音までバリエーション豊かです。バンク1とバンク2が古代さんによるプリセットで、バンク3~バンク22までサウンドカテゴリー別に20バンク=320音色。さらにこれらとは別にPCM音源として64種類のドラムキットが収録されています。このドラムキットもレトロ・ゲームミュージックの制作に欠かせないサウンドが満載となっています。

その古代さんに先日オンラインでインタビューさせてもらったので、紹介していきましょう。

古代祐三さんインタビュー

--古代さんが、今回、LIVEN MEGA SYNTHESISのプリセットを手掛けることになったのは、どんな経緯だったんですか?
古代:5~6年前、SONICWAREから最初のガジェットシンセ、ELZ_1が出たころに、SONICWAREの社長である遠藤祐さんとTwitterでやりとりさせていただいたのがそもそもです。その後、LIVENシリーズの8bit warpsやXFMなど、各種機器を使わせていただき、愛用していた中、遠藤さんからMEGAの話を伺うとともに「プリセットを作ってもらえないか?」という話をいただいたんです。

年末にオンラインでインタビューさせていただいた古代祐三さん

--それがいつごろの話だったんですか?
古代:2か月くらい前ですかね。11月だったと思います。発売が2024年正月だというので、大急ぎで取り掛からなくちゃいけないな、と。ただ、送ってもらったプロトタイプを見たら、モロにメガドライブ(笑)。また数を聴いたら32の音色と8ソングパターンがあればいい、とのことだったので、「その程度なら1~2週間あれば余裕ですね」なんて返事をしたんです。これまでLIVENは触り慣れてるし、モノはメガドライブだから、サクサクと作業も進むだろう、と。また、プリセットとしては、やはり過去に作ったものを再現するのがユーザーにも納得感があるだろうなと、昔のデータを引っ張り出して、移植してソングを組むことにしたのです。ところが、当初どうにもうまくいかなかったんです。あのときの音にならない。。もちろん、この新しいLIVEN MEGA SYNTHESISでの音を前提にまったく新しいプリセットを作るということもできましたが、それではユーザーも納得しないですよね。

--FM音源を知り尽くしている古代さんが苦戦した理由はどこにあったんですか?
古代:たとえばエンベロープのパラメータであるサステインレベル。これがメガドライブでは16段階だったのが、こいつは128段階。すごく解像度が上がってるのはいいんですが、単純に等分になっているわけではないようだったんです。そもそも特性を示す曲線が違ったので、手探りで作るしかありません。またフィードバックもメガドライブは8段階だったのがLIVEN MEGA SYNTHESISでは128段階になっていたほか、パラメータによっては最大と最小が逆になっていて、混乱してしまいました。これだと時間をかけることである程度近づけることはできても、完全に同じ音にするのが難したったんです。しかも、納期が差し迫る中、1日頑張っても2、3音色作るのが限界で、さすがに間に合わないぞ、と。

最初の2バンクに古代さんのプリセットサウンドが収められている

--でも、それを解決したからこそ、今回無事に古代さんのプリセットが入ったわけですよね。
古代:はい。SONICWAREさんにお願いして、ファームウェアを新しく作ってもらうとともに、YM2612のパラメータをLIVEN MEGA SYNTHESIS用にするためのExcelシートの変換表を作ってもらいました。その結果、手元のデータをそのまま使えるようになり、劇的に作業効率を上げることができました。とはいえ、10日間かかってしまったのですが、ソングデータも含めなんとか納品することができました。最初の2バンクを私用に空けておいてもらったので、ここに入れる32音色とソングパターンですね。

--具体的にはどんなプリセットをつくったのですか?
古代:「イース」、「ベア・ナックル1」、「ベア・ナックル2」、「The・スーパー忍」、「世界樹の迷宮」などですね。そのほかにも昔から作っている音色をいくつかちりばめたり、アーケードゲームの某著名曲の音なども収録しています。

--私個人的にはYM2612って使ったことはないのですが、YM2203とかYM2151とはどう違うんですか?
古代:YM2203も一緒ですよ。YM2203は3音までだったのがYM2612は6音まで出せるのと、PCMが利用できるという違いです。YM2151はOPMなので、同じ4オペレータ/8アルゴリズムではありますが、ちょっとパラメータは違いますね。一方で、YM2203にはPSG音源が入っていたのに対し、YM2612にはそれがないため、メガドライブではSN76489を入れています。ただ、このSN76489はオクターブの幅が従来のPSG音源と違って狭いため、低音が出ないんですよね。その点を考慮しながら音作りをしていくのがポイントです。

--ぜひ、古代さんの音色、どうなっているのかパラメータをチェックしながら研究してみたいと思います。ありがとうございました。

以上、新年早々のニュース記事となりましたが、SONICWAREが発表した最新マシン、LIVEN MEGA SYNTHESISについて紹介してみました。このインフレで価格が高騰する中、29,800円(税込)というのも嬉しいところですが、何よりも昔懐かしいサウンドを手元で再現できるのは楽しいですね。冒頭で紹介した通り、発売当初は少量生産となるので、気になる方は早めに注文するのが吉だと思います。

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