6月23~25日、アメリカのNashvilleで行われる楽器の展示会、Summer NAMM 2016において日本のベンチャー企業である株式会社ユードーが出展し、800万円以上の価格になるという究極のシンセサイザー、NEUMAN KEYBOARDを発表することが明らかになりました。最近のシンセサイザー業界は、アナログ復古・アナログ回帰という流れが大きくなっている中、今回ユードーが発表するのは完全なデジタル・シンセサイザ

世界初の超大型タッチスクリーンパネル搭載したシンセサイザであり、世界中のトップ・ミュージシャンのニーズに応える、使いやすさと弾きやすさを徹底的にこだわった、という機材。76鍵盤を搭載する近未来的デザインの機材ですが、なんとオーディオ出力端子もなければ、MIDI入出力、ペダル端子もなく、すべてワイヤレス。できれば電源ケーブルさえなくそうという、まったく普通ではない機材のようです。オーダーメイドの開発となるため、年間6台の生産を目指す、とのことですが、そもそも800万円以上するシンセサイザーが世の中に受け入れられるものなのか、それに応えられるキータッチの鍵盤をベンチャー企業で作ることができるのか、開発者であるユードーの社長、南雲玲生(なぐも・れお)さんに話を伺ってみました。


6月23日から始まる米Summer NAMMでの発表が予定されているNEUMAN KEYBOARDのデザイン

楽器メーカー、シンセメーカーなら片っ端から知ってるよ、という人でもユードーという会社をご存じな方は少ないかもしれません。ユードーは、「beat mania」、「pop'n music」など、いわゆる“音ゲー”ブームを生み出し、そのマネジメントまで深く関わった経験を持つ、「dj nagureo」こと南雲玲生さんが2003年に設立した横浜・みなとみらいにある会社。


beat maniaの開発者でもある南雲さんが、800万円のシンセサイザーを企画、設計中 

奇抜な企画力を活かし、世界に通用する革新的な新サービス・新ゲームを作ることを目指しつつ、主にスマートフォンアプリの制作を行ってきたとってもユニークな会社なんです。実はDTMステーションのスタート当初、2010年にも「iPhone/iPad用DTMアプリを次々と生み出す日本メーカー、ユードーとは」、「AndroidでDTMは無理なの!? ユードー・インタビュー続編」といった記事で取り上げたこともありました。当時から、すごい力を持った会社だな……と思っていましたが、またトンでもないモノを作ってしまったんですね!


完全スッキリなデザインのシンセサイザ、天板には超大型のタッチスクリーンの液晶パネルが埋め込まれている 

この話を最初に南雲さんから聞いたのは2015年9月。「OSも意識せずに、電源コードも、MIDIもオーディオアウトもまったくなくて、ミュージシャンが使える究極のシンセサイザーを考えている」、とプロトタイプの写真を見せてもらったんです。そのときは、「南雲さん、またシンセ趣味が高じて変なことを思いついちゃったんだろうな……」なんて軽く思っていたんですが、趣味とかのレベルではなく、すごいことを思い描いていたんですね。


アルミシートメタル製の筐体を採用しており、鍵盤はビンテージモノを含め好きなものを使うことができる 

今、ガジェット系のシンセはいっぱいあります。どれも音作りを主眼としたもので、もちろん、それはそれで面白いけれど、僕はもっと演奏したり曲を作るときに使えるシンセが欲しいな、と思っていたんです。以前はE-muのE4のキーボードの鍵盤タッチが好きで、これをかなり長い間使っていましたが、そんなものがあったらいいな……と。ただ、大手メーカーはそうしたシンセって作ってくれません。だったらミュージシャン、アーティスト専用に徹底的に使いやすい、弾きやすいものを作ろう、と思ったんです」と南雲さんは当時を振り返ります。


横浜・みなとみらいにある、ユードーのオフィス入口 

とはいえ、万人にとって弾きやすいキーボードというのはなかなかなさそうですし、人によって好みもあると思います。


ユードーのオフィス内の一角は鍵盤部が露わになったビンテージ機材置き場になっていた… 

僕は少し昔のヤマハのFS鍵盤が好きですが、80~90年代のキーボードが好きな人、弾きやすいと思う人は多いように思います。それでDX7やM1、TRINTYなど、いろんな音源からキーボードを抜き出し、職人さんにオーバーホールをお願いするとともに、磨き上げてもらったところ、素晴らしくいいコンディションにすることができるんですよね。だから、ユーザーに好みの鍵盤を指定してもらい、それに合わせたものを調達して組み込もうと思っています。基本的には76鍵盤のサイズですが、61鍵盤もOKな設計にしています」(南雲さん)と、そもそもの発想が普通ではありません(笑)。


取材に行った日に、到着したばかりの特注のタッチパネル式の液晶がキーボードと接続された 

では、肝心のシンセサイザーとしての音源部分はどうするのでしょうか?

Nord Leadが出たときは、とっても斬新だと思ったけれど、歳をとったのかな……ツマミがいっぱいあると、曲作りよりも音作りに行っちゃうんですよね。VCOやVCFをいじるのも疲れてきたし(笑)……。だったらもっと簡単にタッチパネルで音色を選んでいけたらいいんじゃないのか、と思ったのです。今のソフトシンセ、性能的にはとっても優秀ですからね。ただ、それをPCと接続して……と考えると面倒だし、レイテンシーの問題も出てくるし、何よりスマートではありません。それなら、コンピュータごと、シンセの中に組み込んでしまえば、あとから自由に音源を変えたりすることもできますからね。一方で、僕らも長年スマホのアプリを開発してきましたが、演奏に専念することを考えると、小さいスクリーンじゃなく、大きいのが欲しかった。メニュー階層が深いと使いにくくなるから、指を離さすに操作できる範囲に留めようと、ソフト側も作っていったんです」と南雲さん。


シンセサイザの音源部分は内蔵させる小さなPCが担当する 

まだ、細かな仕様まで、完全にフィックスはしてないようですが、現在のところ、IntelのCoreM-5Y10c Processorを搭載した小さな小さなPCを内蔵させ、ここにLinux、Windowsを動かしてソフトウェア音源として使っていくようです。Summer NAMMで展示する機材では、SoundFontを利用したサンプリング音源を利用しつつ、3Dの惑星をイメージするUIを施して、イメージ、コンセプトを訴えていこうとしています。


上田さんがデザインしたUIのスケッチ。これが3D化されて実装される

で、そのUIのデザインを担当したのがaudio inc.という会社の代表取締役、上田晃さん。上田さんは元スクウェア・エニックスのデザイナーであり、シンセ関連でいえば、佐野電磁さんのDETUNEの製品である、KORG M01やKORG iDS-10、iYM2151などのデザインを手がけた人。


M01やiDS-10などのUIを設計した経験のあるaudio inc.の上田晃さん 

DETUNEさんでは、物理的に存在するものをグラフィックで再現する仕事をしていましたが、今回のはまったく逆のアプローチであり、ゲームでのUIに近い感じ。グラフィックならではのスイッチなどを表現してみました」と上田さん。


プログラムの実装は、電気グルーヴのレコーディングエンジニアなどとしても知られる渡部高士さんが担当

一方で、そのUIを内蔵コンピュータのシステムとして実装していくプログラミングを担当したのは、電気グルーヴのレコーディングエンジニアなどとしても知られる、渡部高士さん。ここではサウンドを調整するとか、シンセサイザ部分を作るというだけでなく、本当に、プログラムの実装部分をコンピュータのエンジニアとして携わっていたんですね。渡部さんが子供のころからコンピュータ・プログラムをしていた、というのは知っていたし、よく技術的に突っ込んだ話をしているので、プログラムに強いことは知っていましたが、こんなことまでしてしまうとは……。


精鋭のメンバーがNEUMAN KEYBOARDの開発に携わっている

ほかにも、このNEUMAN KEYBOARDの開発には、筐体の設計や製造など、第一線で活躍しているさまざまな人が関わっているようですよ。


NAMM Showで展示する筐体も、横浜の工場でほぼ手作りで完成したばかり

ところで、気になるのは、南雲さんがこだわっている究極のスッキリ・デザイン。

弾きやすさを追求していったら、この形じゃないか、とコンセプトが固まっていきました。オーディオ出力用に、今のところ穴は空けているのですが、製品化する時点では、これをなくしたいですね。もちろんMIDIもペダルもワイヤレスです」と南雲さん。


オーディオ部分もワイヤレスで飛ばすのだとか。これでレイテンシーをどこまで縮められるかが目下の課題 

BLE-MIDIが固まってきた時代ですから、MIDIのワイヤレス化や、ペダルのワイヤレス化までは分かりますが、オーディオもヘッドホンもワイヤレスって、尋常じゃないですよね。これでレイテンシーは大丈夫なのか、音質に問題はないのか、と心配になってしまいますが、現在調整中で、ほぼメドは立ってきているとのこと。この普通ではい発想には、いちいち驚かされます。
 

その他各種ボードを組み合わせて設計されている

ちなみに、音源部はWindowsまたはLinuxを使いつつ、各種コントローラ部にRaspberry Piを採用するなどシステム的にはいろいろなコンピュータが採用されており、それらを組み合わせて1つのシンセサイザーを構成しているようです。また実際に製品化する際はユーザーの嗜好に合わせてキーボード部を変更するので、どのキーボードを採用するかによて、信号の出方やタイミングを調整するとともに、ベロシティーカーブやキーオフの設定など、さまざまな作業ことになるのだとか……。


南雲さんが生み出す究極のシンセサイザー、NEUMAN KEYBOARDが世界でどう受けと止められるのか、 期待したいところ

私自身、まだまだこのNEUMAN KEYBOARDの全貌が理解できていない、というのが実情ではありますが、今回のSummer NAMMで、そして今後のシンセサイザー業界で、この小さな会社が生み出した大きな話題になってくれたらいいなと、応援しているところです。

【特徴】
・アルミシートメタル製筐体
・ハイレゾ対応8chマルチワイヤレスオーディオ
・76鍵盤セミウェイテッド(FS鍵盤リビルド、もしくは新造鍵盤)
・930mm x 200mm(解像度1920x360)マルチタッチパネル付きLCD
・Linux windows10対応intel i5CPU搭載、ファンレスマザーボード 

【スペック】
KEYBOARD:76-key semi weight (with velocity and after Touch)
LCD: LED/TOUCH PANEL
OS: Linux /WINDOWS
CPU: Intel®Core™M-5Y10c Processor
GPU: Intel®HD Graphics5300
MEMORY: 4GB
STORAGE: 512GB
SIZE: 42x16x7.5 inch (1.2x0.4x0.2m)
WEIGHT: 20kg

【関連サイト】
NEUMAN KEYBOARD製品情報
株式会社ユードーWebサイト