2月24日、KORGからアナログシンセのフラグシップ、prologueが発売になりました。すでに発売されていたminiloguemonologueの上位機種となるもので、ステージでもスタジオでも使えるprologue-16(16ボイス・61鍵:税別定価250,000円)とprologue-8(8ボイス・49鍵:税別定価185,000円)の2機種。音にこだわりつくした、まさにKORGの本気のアナログシンセなわけですが、ここにはアナログのオシレーターだけでなく、Multi Engineというユニークなデジタルのオシレーターが搭載されているのも大きな特徴になっています。

このMulti Engineでは、FM音源を鳴らせたり、柔軟性の高いノイズジェネレーターとして使えるほかに、ユーザーが自由に波形を作ることができるユーザーオシレーターという機能も用意されており、これがかなりマニアックで面白そうなのです。先日、このprologueを開発した、株式会社コルグの山田嘉人さん(開発リーダー/電子回路設計担当)、ノロ・エベール エティエンさん(OSとDSP開発担当)、にお話しを伺ったので、その内容を紹介していきましょう。


Multi Engineというユニークな音源を搭載したアナログシンセ、KORG prologue

--まず、山田さん、エティエンさんの経歴について簡単にお伺いしたいのですが、お二人はprologueの開発までは、どんなことをされていたのですか?
山田:新入社員として入社して今年で7年目になりますが、当初はコントローラやKAOSS PADなどPC寄りのツールのグループにいました。その後アナロググループに立ち上げから参加し、volcaシリーズやminilogueの基礎研究のころから担当して、minilogueとmonologueにはプロジェクトリーダーとして関わってきました。学生のころからエフェクターなどを作っていましたが、しっかりアナログシンセ回路の勉強をするようになったのは、現在当社アドバイザーである高橋達也さんに付いてからです。
エティエン:私がKORGに入ったのは1年5か月前です。それまではドイツのLiineという会社でテクノアーティスト向けのカスタムライブシステムやコントローラの開発などDSPシンセエンジンの開発をしていました。もともと大学ではプログラミング言語のコンパイラなどを作っていたのですが、電子音楽の趣味でDSP=Digital Signal Processorについては、いろいろ研究してきました。


開発した山田嘉人さん(左)、ノロ・エベール エティエンさん(右)にお話しを伺った

--なんとなく、アナログの山田さんとデジタルのエティエンさんというコンビのようですね。
山田:そうですね。ハードウェアが私で、ソフトウェアがエティエンという感じでもあるし、音楽性の指向においても私が音楽然としたものを好んでやってきたのに対し、エティエンはループ系だったり、ノイズ系だったりが好きなので、さまざまなところで対極的なんですよ。だからこそ、バランスの取れたシンセを作ることができたのかな、と思っています。


61鍵盤で16ボイスの、prologue-16にはVUメーター付きのLFコンプも搭載されている

--さて、本題のprologue、先日発売されましたが、これはいつごろから開発プロジェクトがスタートしているんですか?
山田:企画自体は、2年ぐらい前のminilogueの開発が終わったころから始めていて、当初から16ボイス・61鍵のprologue-16と8ボイス・49鍵のprologue-8、2つのプランを考えていました。しかし単にminilogueのポリ数を増やすだけじゃ、面白くない。もっとチャレンジングなシンセにするにはどうすればいいかを考えるとともに、minilogueに代表されるような特徴的なデザインにするにはどうすればいいか、と練っていったのです。どちらかというと中身の検討は進んでいたんですが、金型やパネルの表面処理など、製造面での準備に時間がかかった感じです。


49鍵で8ボイスのprologue-8も機能的にはボイス数以外はprologue-16と同じ

--単にminilogueの延長線上のものではなく、やはり新しいシンセである、ということですね。
山田:そうです。minilogueやmonologueの良さは踏襲しつつも、prologueでしかできないものを持ったシンセを作っていったのです。minilogueで評判のよかったVCOx2、VCFx1、EGx2というシンプルなシンセサイザの構成や、パネルレイアウトの基本は引き継ぎながら、新しいオシレーターであるMulti Engineというものを搭載しています。そのため、初めてアナログシンセに触る人であったり、アナログシンセの仕組みに詳しくない人でも、音色作りが簡単にでき、プリセット選びにも悩むことなく、パネルからダイレクトアクセスができるようにしています。ハイエンドのアナログシンセは、複雑で何でもできるモンスターシンセになりがちなんですが、そうしてしまうと、分かりやすく使いやすいという、このシリーズの良さが失われてしまうと思ったので、シンプルで直感的に操作できるパネルレイアウトにはこだわりました。そして、アナログシンセらしさを引き出すサウンドはもっと改善する余地があると思ったので、全体的な部品選定やゲインの調整などの細かいチューニングを積み重ねました。単純にポリで弾いたときの鳴りがリッチに満足感が得られるようにと工夫しています。


左からmonologue、prologue-8、minilogue

--たしかに操作しやすいパネルレイアウトですよね。今回61鍵と49鍵の2機種展開ですが、どういった意図があるのでしょうか?
山田:今の時代61鍵が必要な人と、そうでない人との層が分かれると思うんです。キーボードプレイヤーでなく、PCの周りにおいてスタジオユースで使う人は49鍵で十分ですし、ステージで使うのであれば61鍵は必要なので、その需要を満たすために2機種作りました。ポリ数と鍵盤数両方の兼ね合いですね。


plorogueのブロックダイアグラム

--prologue-16とprologue-8はボイス数、鍵盤数以外の違いはあるのですか?
山田:シンセとしての基本構造は同じですが、VUメーターを装備した最終段のLFコンプは61鍵にしか入っていないです。ステージで使う場合、やはり最終的な出音まで本体で作ることが多いので、このコンプを入れているのです。


prologue-8(左)とprologue-16(右)

--ところで、minilogueやmonologueではアナログのオシレーター、VCOが2つ搭載されている構造でしたが、今回のprologueでは2つのVCOに加え、先ほど山田さんがおっしゃっていたMulti Engineというものが搭載されています。これについてもう少し詳しく教えてください。
山田:もともとはアナログだけでは出ない、強いハーモニクスをつけられるシンセを作ろうという考え方がスタートにありました。そこで、まずはFM音源、ノイズ音源を搭載しようというアイディアはあり、これはアナログシンセの正統進化といえると思います。でも、それだけでは、モノ足りないとも思っていました。そこに、ユーザーの作ったオシレーターをprologueに入れるというアイディアがエティエンから出てきたのです。FM音源のことを「VPM=Variable Phase Moduration」と呼んでいますが、このVPM、ノイズに加えてユーザーオシレーターというものを搭載し、この3つを切り替えて使えるようにしたものをMulti Engineと呼んでいるんです。


開発リーダー/電子回路設計担当の山田さん

--ユーザーオシレーターを加えた3つの音源を切り替えて使えるからMulti Engineなのですね。現時点では、まだそのユーザーオシレーターは使えないようですが、これはどんな仕組みの、どんな音源なのでしょうか?要するにウェーブテーブルを読み込ませるサンプリング音源ということですか?
エティエン:もともとDSP上で、私自身が書いたプログラムを動かす形でFM音源を作りました。ノイズも同様にDSP上で動かしているんです。でも、せっかくこういったDSP環境があるのであればユーザーにも開放して、ユーザーが作ったコード、プログラムをロードして実行する機能があったら面白いのではないかと思い、ユーザー・オシレーターという形にしたのです。つまり、ウェーブテーブルを読み込んで使う音源ではなく、プログラムで波形そのものを発生させるオシレーターなのです。もっとも、このプログラム内に小さなウェーブテーブルを入れて読み込ませることも可能ではありますが……。春にSDK=ソフトウェア開発キットをオープンソースとして無料で公開する予定なので、その後はユーザーがプログラムして転送可能となります。


DSPやOS周りの開発を担当したエティエンさん

--うゎぁ、思い切りマニアックですね!そこまでのものとは思っていませんでした!
エティエン:マニアックです(笑)。このSDKはWindowsおよびMacで動作するものとなっていて、テンプレートやルール的なものも含まれています。それを使ってまずユーザーが、オシレーターのプログラムを作ります。プログラミング言語的にはCかC++で、用意されている関数を利用しながらプログラムを作り、コンパイルすると、1つのオブジェクトファイルができるので、これをprologueへUSB経由で転送するのです。同様にカスタムエフェクトも作ることができます。
山田:実はオシレーターだけでなく、エフェクトもプログラムで作ることが可能になっています。エフェクトのほうは、ユーザーオシレーターではなく、後段にあるモジュレーションエフェクト用なのですが、自由に好きなエフェクトを作ることができるんですよ。


Multi Engineはこんなプログラムでユーザーが音源を作ることが可能になっている

--なるほど、そんなすごいシンセだったのですね。とはいえ、プログラミングができない人にとっては、使いこなせないシンセということにはなりませんか?
山田:おそらく、今後ユーザーが作ったオシレーターのプログラムや、エフェクトのプログラムが、ライブラリとしてネット上に公開されていくと思います。もちろん、われわれとしてもいろいろと作って公開していきたいと思っています。つまり、まったくプログラムをしない人でも、数多くあるライブラリの中から好きなものを入手して、prologueへ転送することが可能になり、アナログのVCOだけでは表現できないサウンドを存分に楽しめるようになるはずです。


prologueの音源ボード。この1枚で4ボイス分が構成されている

--ライブラリを入手してきてインストールすれば、色々なシンセになるのは面白いですね。
山田:はい。単にオプジェクトファイルだけでなく、サイン波やソーウェーブが出るといった簡単なプログラムも誰かが作って、公開してくれるだろうと思うのです。だから、それらを入手して中を開いてみれば、プログラミングをかじったことがある人なら、なんとなく分かるでしょうから、ちょっと数値を変え、どんなサウンドになるかを試してみる、といったところからスタートしても面白いと思いますよ。この仕組みのポイントは、自分で1からシンセのすべてを作らなくていいということですね。もしシンセサイザーを自分で作るとなったら、鍵盤を弾いたときのアサイナー処理ですとか、フィルタをどうするか、VCAのようなアンプ的なものをどう作るかなど、膨大な量を開発しなくてはいけません。でもそういった周辺のところはすべてprologue本体が処理するので、ユーザーはオシレーター作りだけをすればよく、楽しく遊べると思いますよ。
エティエン:初心者にハードルまだ高いと思いますが、コードがだいぶコンパクトになるので、プログラミングの経験が少しでもあれば結構遊べると思います。


各ボイスには1つずつDSPが搭載されており、これでMuliti Engineが作られている

--オシレーター作りに集中できるのはいいですね。ちなみにそのユーザーのプログラムのサイズはどのくらいで、prologueにはいくつまで入れることができるのでしょうか?
エティエン:オシレーターの場合30Kバイトくらいです。ただprologueの中にはハーモニックなコンビネーションのウェーブなど、シンプルなウェーブテーブルが60個ぐらい入っているので、自分で入れなくてもこのウェーブテーブルを呼び出す形で利用するのも面白いと思います。
山田:この60個のウェーブテーブルも鳴りの豊かなトランペットやフルート……といったものではなく、シンプルな波形です。そもそも、リッチなPCM音源をアナログシンセで鳴らす意味はそんなにないと思うので、ベーシックなウェーブテーブルを組み合わせていくことで面白いサウンドが作れると思いますし、30KBに収まる範囲で自分の波形を入れてもいいのかなと思います。そうして作ったプログラムは全部で16個までprologue内に入れることが可能です。ただし、同時にロードできるのは1個です。それが、すべてのボイスに対して適応されます。正確に言えば2ティンバーなので、たとえば8+8ボイスの構成にすれば、2種類を同時に使えますね。


Muliti Engineから出た音は完全にアナログの回路を通してシンセサイザとして発音される

--ちなみにエフェクトは、専用のDSPが搭載されているんですか?それとも同じオシレーターと同じDSPエンジンで動いているのでしょうか?
エティエン:エフェクト用のDSPは別途搭載しているわけではないのですが、構成としてはシンセとは違うところで動いています。prologueではモジュレーション系のMOD EFFECTと空間系のDELAY/REVERBというエフェクトが一系統ずつ入っていますが、そのうちのMOD EFFECTのほうにユーザーが作ったエフェクトが入ります。今は見えていませんが、カスタムエフェクトをロードすると、CHORUS、ENSEMBLE、PHASER、FLANGERのうしろにUSERという項目が表れて、ここを選べるようになるのです。


全体を司るコントローラを担うボードに搭載されたDSPがエフェクト部を担当する

--このユーザーオシレーターとエフェクトはDSPを使ったデジタルだけど、VCOはもちろん、VCFやEG、LFOなどはアナログであるという理解でいいんですよね?
山田:はい、音の部分に関してはアナログとなっています。ただし、内部には1ボイスごとに、マイコンが搭載されているほか、全体を司るマイコンも用意されているため、トータルで20個ほどのマイコンがあり、これらがお互いに通信しながら、デジタル制御をするという結構複雑な構造になっているんです。


PCとはUSBで接続でき、ここでMIDIのやりとり、Muliti Engineとのデータのやりとりが可能


--USB端子も搭載されていますが、先ほどのユーザー開発のプログラムを転送するというほかに、何かPCと連携させる機能や活用法はありますか?
山田:USBはmonologueやminilogueと同様でMIDIを送れるようになっています。そのため、それほど複雑なことはできませんが、DAWから制御して演奏することは可能ですし、パネルに出ているノブなど各パラメーターに対してはすべてMIDIのコントロールチェンジを割り当てているので、フィルターでもEGでも、すべてDAWのオートメーションで動かすことができます。それから、LFOはパネルを見るとわかるとおり、FAST、SLOWというモードのほかにBPMというモードに切り替えるスイッチが搭載されています。これをBPMにするとBPMシンクができるようになっているのです。このモードにした状態でMIDIクロックをもらえば、DAWのテンポに合わせてLFOが揺れるので、曲作りの過程で結構使えるものになっています。ただ、volcaなどもそうなんですが、設計する上で、PCとはあえて距離感をとっている部分もあります。USBオーディオを通せるようにするという選択肢もあるとは思うのですが、やはり私たちはアナログだからこそのサウンドにこだわっているので、ラインアウトのオペアンプまで含めての音作りをしています。そういった、ソフトシンセとは違うアナログシンセならではの良さを、存分に楽しんでもらえたらいいなと思います。

--ありがとうございました。

開発者の山田さん、エティエンさんには、3月13日にニコニコ生放送およびFresh! by CyberAgentで放送する第101回・DTMステーションPlus!の番組に登場いただき、prologueの面白さをじっくりお話いただくとともに、実際の音を鳴らしながら紹介する予定です。ぜひ、ご覧ください。

【DTMステーションPlus!放送予定】
3月13日(火) 20:30~22:30
ニコニコ生放送:http://live.nicovideo.jp/gate/lv311502084
Fresh! by CyberAgent:https://freshlive.tv/dtmstationplus/195139

【関連情報】
KORG prologue製品情報

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