Singer Song WriterSound it!MegpoidがくっぽいどAbility……数多くのDTMソフトウェアを生み出してきた株式会社インターネット。1988に設立の同社は、今年9月26日、30周年を迎えます。1988年といえばRolandが、ミュージくんを発売した年であり、DTMという言葉が生まれた年。インターネット社は、まさにDTMとともに30年を歩んできたわけです。

そのインターネット社を経営者として、開発者として30年間引っ張ってきたのが代表取締役である村上昇さん。私、個人的にもユーザーとしてほぼ30年を見てきたので、改めて30年と聞いて、感慨深いものがあります。先日、その村上さんと話をしながら、30年間の歴史を振り返ってみたので、その内容をまとめてみました。


インターネット社はPC-9801時代からスタートして今年で30周年を迎える


--30周年おめでとうございます。30年って、すごいですよね。これから30年間を振り返ってみたいのですが、改めて思うのは「インターネット」って、スゴイ社名を付けましたよね(笑)。まだ、いわゆるインターネットが登場するより前のことですもんね!
村上:そう、まだ世の中にインターネットという存在が広まる前のことでしたが、パソコン通信という意味ではネットはあったんですよ。将来的にこうしたネットが広がっていくんだろうなというのは感じていたので、「設立する会社にとって、何かいい名前はないかな…」と考えていた中「ネット」は付けたいな、と思っていました。そんな中、ふと浮かんだのがインターネット。だから深い意味はなかったし、まさかこうなるとは予想もしてませんでしたね(笑)。


インターネットの村上昇社長

--いまも、新しい人と会うたびに、社名について説明を求められるんじゃないですか?
村上:昔ほどではなくなりましたよ。90年代、NECなどが主催するパソコン関連のイベントに出展していたりしたのですが、当時は「インターネットというのは、どうやって使えばいいんだ」、「インターネットの接続方法を教えてくれ」…なんて人ばかり寄ってきましたからね(苦笑)。まさか、こんなインターネットがこんなことになるとは予想もしてませんでした。

--村上さんにはだいぶ以前に「インターネット村上昇社長と昔話(上) ~ 村上社長はカモンミュージックの設立メンバー!?」「インターネット村上昇社長と昔話(下) ~ SSWはPC-9801用ソフトからWindowsへ移行できた数少ないソフト」という記事で、昔話をインタビューさせていただいたことがありましたが、どういう意図で会社を設立し、最初はどんなことをしていたんですか?
村上:以前はカモンミュージックにいたわけですが、もうちょっと違ったアイディアのソフトを作りたいと思って会社を作ったんです。レコンポーザーは全て自分で入力しないといけないので、だれでも簡単にイメージを膨らませていけるようなソフトを作りたいと考えていました。それがSinger Song Writerだったわけですが、会社を設立してから開発を始めたので、完成するまでには2年近くがかかったんです。当然、その間、無収入というわけにはいかないので、Rolandの「ミュージくん」のデモ曲の制作なんかをしてたんですよ。ほかにも、RolandのシンセサイザDシリーズなどのデモ曲作成だったり、ダイナウェア社のシーケンスソフトであるBalladeのデモ曲作成だったり……。


30年間のインターネット社の全製品ラインナップ


--懐かしいですね。ミュージくんもBalladeもPC-9801用でした。当時はカモンミュージックのレコンポーザのほか、Tool de Music、Recliet、Micro Musician、MUSIC PRO-98……とPC-9801用だけでも、かなりたくさんの国産MIDIシーケンサがありましたよね。
村上:そう、だからこそ、ちょっと違ったソフトを作りたいと思って、Singer Song Writerを開発したんです。アレンジソフト、と呼んでいましたが、コードを入力すると自動的に伴奏が作れるようなものを作りたかったんですよ。2年以上かけて開発をし、発売したものの、ボチボチという感じで、なかなかヒットというところにはなりませんでした。競合が多かったこともあると思います。ただ、パソコンショップ側も、新しいネタをいろいろ探していたので、ツクモなんかに営業しにいくと、すぐに置いてくれましたよ。


筆者の手元にあった、Singer Song Writerの初期バージョンのパンフレット。実はほかにも50種類近くの同社パンフレットが…

--探してみたら、私の手元にそのSinger Song Writerの最初のバージョンのパンフレットがありましたよ。91年の春ごろのリリースですね。その後の製品のパンフレットもかなり手元にありますよ(笑)。
村上:すごいですね。ウチにもほとんど残ってないですね。こうやって発売したPC-9801用のSinger Song Writer、アレンジソフトとしての機能だけだと、やはり見劣りするので、その後のバージョンアップで、すぐにシーケンスソフト機能なども搭載していきました。カモンのレコンポーザ的なステップエディタ機能ですね。


当初の数値入力形式のステップエディタ

--それが、いまのAbilityにも引き継がれている数値入力の機能ですよね。一方で、Rolandのミュージ郎にバンドルされたりもしていましたよね。
村上:そうです、最初にミュージ郎300V3・ミュージ郎500V3にSinger Song Writerのエントリー版がバンドルされたのですが、これが大きな転機となりました。自分たちだけで売っていたときとは大きく異なり、ソフトが一気に広がっていったのです。その後、ミュージ郎バンドル版から製品版へのアップグレードなどが数多くありましたからね。その後のバージョンもミュージ郎シリーズにバンドルされていったので、ビジネス的にも大きかったですね。


ミュージ郎300V3とミュージ郎500V3

--やはりミュージ郎にバンドルされる意味は大きかったんですね。一方、DTMに限らない一般的なソフトとして見ても、かなり早い段階でWindows版を出していましたよね。
村上:Windows 3.1のころにSinger Song Writer for Windowsという最初のWindows版をリリースしました。その後、音符入力機能を搭載するなど、進化させていき、やはり少し機能を削ったものをミュージ郎にバンドルしていました。そして、結構早い時期に鼻歌入力機能を搭載したことで、メディアからも注目を浴びたんですよ。ワールド・ビジネス・サテライトなどのニュースに取り上げられただけでなく、タモリ倶楽部に取り上げられて、撮影に行ったこともありましたよ(笑)。さらにはNHK教育テレビの趣味悠々の教材になったこともありました。やはりテレビの影響力は大きいので、かなりユーザー数も増えていきました。最盛期では年間2万本出していましたから。


Windowsの初期には、Remixという製品も出していた

--年間2万本ですか!いま、DTMに関係ない一般のソフトでも2万本も出るものは、そうそうないんじゃないでしょうか?手元のパンフレットを見るとV3の時点で完全にDOSからWindowsへ移行するとともに、Mac版も出てますね。「漢字Talk 7.5対応」って書いてありますよ!
村上:V3くらいまでは、一人でやっていたのですが、そのころから徐々に社員も増やしていきました。機能的にはバージョン4~5のころにオーディオ機能なども搭載していきました。海外メーカーもちょうどオーディオ機能を搭載しだしていたころでね……。もっとも、オーディオ機能といったって、実質的には録音したものをポン出しするだけ。最初のSinger Song Writer Audioでは2トラックだけでしたが、バージョン6.0あたりで8トラック、バージョン8.0あたりで16トラックになったと思いますよ。


Singer Song Writer 3.0 for Macintoshは漢字Talk 7.5対応。OMSといった懐かしい表記も

--時代的にはもうちょっと前だと思いますが、Rolandが出したギタ次郎というギター型のMIDI入力デバイスにもSinger Song Writerが搭載されていたんですよね。以前、そのギタ次郎関連で、Singer Song Writerの海外展開をされたことがあるって伺いました……。
村上:ギタ次郎の国内版では、Singer Song Writerのギタ次郎版をバンドルしていたのですが、海外向けは別パッケージのソフトとしてSinger Song Writerを販売していました。もっとも、海外はRolandさんが面倒をすべて見てくれていて、ウチはRolandにパッケージを卸すだけ。販売もすべてRolandさん側で行ってくれたし、サポートもお任せ。だからこそ実現できたのですが、それ以上のことはできなかったので、それで海外展開は終わってしまいました。その後はずっと国内ですね。トピックスとしてもう一つ大きかったのがディアゴスティーニの「My Music Studio」ですよ。


Singer Song WriterはRolandのギタ次郎にバンドルされ、海外で販売されたこともあった

--ありました!テレビコマーシャルでSinger Song Writerが出てきて驚きましたよ!あれはいつごろでしたっけ?
村上:ちょうど10年前、2008年です。ディアゴスティーニから「何か面白いことはできないか?」と持ち掛けられたので、いろいろとミーティングなどを重ねながら1年がかりで商品化したんです。980円の創刊号は20万冊売れましたから!

--20万部って尋常じゃないですね。私も創刊号と何号か買った覚えがあります……。
村上:やっぱりテレビコマーシャルの威力はすごいんですよ。その後、隔週で発売になり、最終は81号まで。その81号まで買ってくれた人が約2万人。1/10まで減ったとはいえ、それでもすごい数でした。ディアゴスティーニによれば、この企画はかなり当たったほうらしいですよ。本の仕組みとしては創刊号に入っているCD-ROMに収録されたSinger Song Writerの機能はかなり限られていたんです。その後、号を重ねるごとに収録ソフトのメニューのグレーアウトされた部分が、使えるようになっていき、どんどん製品版に近づいていくという流れですね。記事はギタリストの小川悦司さんが書いてくれたのですが、なかなか面白い企画でした。まあ、これでウチがそんなに儲かったわけではないんですが、いい宣伝にはなったし、そこからバージョンアップしてくれる人もいて、ユーザー数は増えましたね。


ディアゴスティーニの「My Music Studio」なども発売された

--広告宣伝戦略というのも、なかなか難しいものですね。
村上:そこが、いま一番難しいところです。昔はパソコン誌に広告を打っておけば、どんどん売れたんですよ。雑誌の発行部数が多く読者がたくさんいたこともそうですが、パソコンは使っているけれど、Singer Song Writerを知らないのはもちろん、DTMの存在すら知らない人の目に触れて、「何だろう?」、「ちょっと面白そう」といって買ってくれた人が数多くいたんですよ。でも、インターネットメディアの時代はまったく違うんです。基本的に検索して情報をとるので、まったく興味のない人には決して届かない。雑誌はPUSH型広告だけど、WebなどはPULL型。そうなると、興味を持っていない人には決して届かないから、新規顧客の獲得というのは非常に難しくなってしまったんですよ。


Singer Song Writer、Sound it!、Abilityと膨大な製品が発売されてきた

--Singer Song Writerを展開する傍ら、波形編集ソフトのSound it!もかなり売れていましたよね。
村上:先ほどの話でSinger Song Writer Liteが最盛期で2万本あったのに対し、Sound it!は1万5千本でしたら、そこまででもないですが、今から考えればすごい時代でしたね。Sound it!ももちろん海外製品も含め、多くの競合がある中で、使いやすさ、分かりやすさという面で、今も多くのユーザーさんに使っていただいています。Singer Song Writer/Abilityに対するもう一つの大きな事業の柱が確立したわけです。


筆者の自宅の整理ボックスからSound it!初期バージョンの発売予告パンフレットを発見

--その後、Singer Song WriterはDAWへと進化していき、今はAbilityとなったわけですが、途中バージョンアップが滞っていたころもありましたよね(苦笑)。
村上:そうですね、巷では「Singer Song Writer 7.0VS騒動」なんて言われていたこともありました。経緯を言うと、2002年にSinger Song Writer 7.0VSという製品を出すとアナウンスしたんですよ。ここではVST対応するとか、オーディオ機能の強化するといったことを発表したものの、全然出せなかったんです。開発規模が大きくなってきて、なかなか進まなかったのとともに、他の仕事が忙しくて……。

--ほかの仕事って、何をされてたんですか?
村上:ニコニコ動画などを始める前のドワンゴさんでの仕事です。当時、ドワンゴは着メロの制作会社だったのですが、携帯電話の種類が豊富で、フォーマットもいろいろあったため、1つのMIDIデータを作成すれば、それを各携帯電話のフォーマットに展開できるコンバーターなどを開発していたんですよ。まさに、これが世の中の旬という時代。この時代の波に乗るため、Singer Song Writer側が手薄になってしまったんです。なんとか8.0VSで、各機能を搭載してリリースしたんですけどね…。その後9.0VSまでも5年近く掛かっていて、結構苦労しました。でもこのころにはオーディオエンジンも大きく改良し、32bitFloatとかも実現したり、各エフェクトもオリジナルのものを搭載し、音質性能もブラッシュアップし、その後のAbilityへとつないでいったのです。

--そうか、そんな昔からドワンゴとの付き合いがあったんですね。
村上:実はそのドワンゴさんとの付き合いが元となって、VOCALOIDのビジネスもスタートしているんです。クリプトンさんから初音ミクが出てしばらくしたころに、ドワンゴからVOCALOIDをやってみないか……って誘われたんです。そのころは、もうニコニコ動画がスタートしていて、VOCALOIDで盛り上がってきていたんですよね。そんな中、やはりドワンゴから紹介されたGACKTさんに、「VOCALOIDをやってみないか?」と持ち掛けたら、「やってもいいよ!」と返事をもらえたんで、じゃあ作ろう、となったんです。ところが、その後にYAMAHAさんに話をしたけれど、なかなか交渉しても前に進まなくて……。もちろん、クリプトンさんが先にやっているということもあったんだと思いますけどね。何か月かの交渉の末ようやくGOが出てね……。その後作り方に関してYAMAHAからレクチャーしてもらったり、ツールをもらったりして、ようやくスタート。そこから半年くらいかけて、ようやくリリースとなったんです。ただ発表したのが4月1日で、しかもGACKTさんの声のVOCALOIDだ、という内容だったんで、最初はジョークだと思われましたよ。その1年後にMegpoidもリリースしました。

--その後、Megpoidなど、かなりの数売れましたよね。Singer Song Writerとはまただいぶ違うビジネスですよね。
村上:Megpoidが売れるまでには、少し時間がかかりました。が、ちょうどDECO*27さんが、『モザイクロール』という曲を発表してくれたことがキッカケとなって、売れるようになっていきました。VOCALOIDはDTMにおいて非常に有効なツールだと思うのですが、戸惑った面もあるんですよ。

--「戸惑った」とは、どういうことですか?
村上:ネット上などで「インターネットはMegpoidなどを作ったところまではいいけれど、売りっぱなしじゃないか」という批判がされたのです。でも、うちは売るだけじゃなく、しっかりサポートもしているのに、何を言ってるんだろう…と。売った後といえば、サポートというのが我々の常識ですが、彼らが言っていたのは、そこじゃないかったんですよね。キャラクタを大事にしろ、ということだったんです。これは、かなりカルチャーショックでしたよ。VOCALOIDの世界は、どんどんコンテンツビジネスになっていったわけですが、うちは音楽制作ツールを制作する開発会社で、それを得意とするところではありません。もちろん、その後、できる限りのことはしていったのですが、やはりなかなかその部分には手が回らなかったのも事実です。最近はだいぶVOCALOIDも落ち着いてきましたが、一時は当社の売り上げの40%近くを占めましたから、かなりの規模になりましたね。


がくっぽいど、MegpoidなどのVOCALOID製品を手掛けたことで、売り上げ構成なども大きく変化した

--さて、Singer Song Writerから大きく進化する形でAbilityになり、Ability 2.0、Ability 2.5とバージョンアップを重ねてきたわけですが、今後はどんな展開を考えているのでしょうか?
村上:ユーザーの方ならご存知の通り、Abilityは日々進化していて、メジャーバージョンアップをまたずとも、毎月のようなアップデートでユーザーのみなさんからの要望などを元にどんどん新機能を追加しています。現在はAbility 3.0リリースに向けての開発も進めています。まだ時期はハッキリしませんが、年内にはお披露目できる予定で動いています。ここではUIを大きく変え、最近流行りの1画面ユーザーインターフェイスにもできる予定で開発しているところです。

--それは楽しみですね。一方で、先日アメリカのNAMM Showにも出展されていましたが、今後インターネットととして海外展開を進めていくのですか?
村上:以前のギタ次郎のころとは環境が大きく変わったので、海外展開をしようと進めているところです。昨年はニューヨークで行われたAESに出展し、今年1月のNAMMにも出たわけです。そうしたイベントには出展しましたが、海外の流通にパッケージを流すのではなく、インターネットを通じた販売、そしてサポートなので、日本にいながらビジネスができるようになってきたのです。まずはSound it!をリリースしましたが、少しずつ手ごたえを感じ始めているところです。そして今取り組んでいるのがAbilityの海外展開です。


NAMM Show 2018の初日、同社ブースで、Sound it!について解説する村上社長。翌日よりインフルエンザでダウン!

--Sound it!にしてもAbilityにしても、音楽ソフトに国境はないですもんね。海外勢が日本に多く入ってきていますが、日本の波形編集ソフトやDAWが海外に攻めて行ってくれると、なんとなく誇らしく感じてしまいますね!ぜひ、大成功を期待したいところです。
村上:Abilityの英語化を進めていますが、なかなか大変です。メニューやヘルプを英語に直していくと同時に、マニュアルもすべて英語にしなくてはならないですからね。マニュアルだけで800ページもあるので、簡単にはいきません。一方で、Ability 3.0の開発も並行して進めているので、なかなか道は険しいですが、頑張って進めていきたいと思っています。

--ありがとうございました。ぜひ、今後の発展、海外展開、楽しみにしています。

今年30周年を迎えるインターネット社は、30年を記念して、4月からさまざまなプレゼントを行うキャンペーンを展開していくとのことです。


インターネット社サイトにて30周年記念キャンペーン実施中


すでに4月3日からは、アンケートに答えることで、サウンド編集ソフトである「Sound it! 8 Basic ダウンロード版(Windows/Macintoshのいずれか)」が抽選で10名にプレゼント!」という企画がスタートしています。

Abilityなどのユーザーはもちろん、一般の人でも応募できるキャンペーンとのことなので、ぜひ応募してみるとともに、今後の情報をチェックしてみてください。

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