DAW配信にも使える!? ヤマハのライブストリーミングミキサーの最高峰AG08は、一般的なミキサーと何が違うのか?

ヤマハの大人気機材、AG03MK2(税込メーカー希望小売価格:18,700円)、AG06MK2(同23,100円)の上位機種としてAG08(同96,800円)が先日発売されました。価格的に見ると、AG03k2の5倍強、AG06MK2の4倍強と、かなり高めながら、これまでにないユニークなミキサーとして配信系のユーザーから絶賛されているようです。またDTM系のユーザーからは、「DAWを使って音楽制作しているところを配信できる!」といった声も上がっています。

AG08という型番からも想像できるように、これは8チャンネルのミキサーですが、一般的な8チャンネルのミキサーとはかなり考え方や機能的にも異なる機材で、またボイスチェンジャーやサウンドパッド、エフェクトなど多彩な機能を搭載したものとなっています。確かに見た目はミキサーではあるけれど、ヤマハのMGシリーズをはじめとする一般的なミキサーとはかなり方向性も機能も違う機材となっているのです。そこでAG08がどんな製品なのか、なぜ多くの配信系ユーザーが絶賛しているのかなどを解き明かしていこうと思います。

YAMAHAのストリーミングミキサー、AGシリーズの最上位モデル、AG08

AG03MK2、AG06MK2の上位モデルとして登場したAG08

AG08の話に入る前に、その下位モデルであるAG03MK2、AG06MK2について簡単に紹介しておきましょう。以前「ヤマハの第2世代、ライブストリーミングミキサー、AG03 MK2、AG06 MK2、AG01を試してみた」という記事で、AG03MK2、AG06MKについて紹介していましたが、コンパクトでありながら非常に多機能なミキサーであり、マイクやギター、オーディオ機器からのラインなど外部からの信号をミックスするだけでなく、USB経由で流れてくるPCからの音もミックスできる機材となっています。

左がAG08、右がAG03MK2

普通ミキサーというと、外部からの音をミックスして、メイン出力やヘッドホンに出力するものですが、AGシリーズがユニークなのはメイン出力やヘッドホンに出力すると同時に、USBを経由してPCにも出力する形になっていることです。見方を少し変えると、一般的なミキサーとオーディオインターフェイスを足し合わせたような機材なのです。

AG03MK2の03、AG06MK2の06はそれぞれ3ch、6chの入力があることを意味するのですが、先ほどの記事の中でも紹介した通り、通常の3chや6chに加え、AUX INがあったり、ヘッドセットからの入力があったり、先ほど触れたPCからのループバックがあったりと、実際のチャンネル数的には、この数字より断然多いのも面白いところ。しかも、リバーブ、EQ、コンプ、さらにはギターアンプシミュレータまで搭載されており、これ1台でさまざまなことができるユニークな機材なのです。

AG06 MK2(左)と2015年に発売された初代のG06(右)

もともと2015年に、前モデルのAG03、AG06が配信用のミキサーとして業界初でリリースされて以来、ずっと生産が追い付かないほどの人気を保ち、後継のMK2になってからも、その圧倒的人気は続いています。

AG08はAG03MK2やAG06MK2とはかなり違うコンセプトのミキサーだ

今回その上位機種としてAG08が誕生し、YouTuberの方々やゲーム配信をしている方々などから絶賛されています。でも、単にAG03MK2、AG06MK2の上位版という表現だと、AG08の中核的部分が伝わりにくいのも事実。「AG06MK2より、入力チャンネルが多いミキサーということだよね?」、「チャンネル増やして、ポン出し用のパッドを付けたってことだよね?」といった印象を持っている方は少なくないでしょう。確かにそういう面もありますが、AG08の凄さというか、一番の醍醐味は別のところにあるんです。

AG08のトップパネル

誤解を恐れずに言えば、AG03MK2やAG06MK2とは大きくコンセプトの異なる姉妹モデルという感じなんです。その最大のポイントとなるのが、WindowsやMacとの関係性にあり、コンピュータ側からはドライバが3つ存在するように見えるという点なんです。

AG08のリア

PC上のソフトごとの音量バランスをAG08のフェーダーでコントロール

ドライバなんて話をしだすと敬遠してしまう方もいると思うので、ちょっと簡単な例を紹介してみましょう。

たとえばゲーム配信というか、ゲームをしながら、その様子を実況していく配信をするとしましょう。この際、自分一人でしゃべるのではなく、Zoom接続した友人とともに、会話をしながら、しかもバックにBGMを鳴らしながらしゃべっていくとしましょう。

この際、配信に乗る音としては自分の声、ゲームの音、Zoomからの友人の声、BGMと4つの異なる音を出す必要があります。実際、OBSなどを使って配信をしたことがある方ならわかるとおり、これだけいろいろな音を一緒に配信するのって、なかなか難しいんですよね。一番簡単なのはゲーム用のPCとZoom用のPC、BGMを鳴らすプレイヤーが別々に存在していて、これをしゃべり用のマイクとともに、一般的なミキサーでミックスし、さらに別のOBS用PCへオーディオインターフェイス経由で渡す……というのがシンプルです。まあ、シンプルとはいえ、配線はかなりグチャグチャになりそうですが、考え方はわかりやすいですよね。

でも、このすべてを1台のPCで行うとしたらどうでしょうか?何をどう設定していいのか、非常に難しくなると思います。ループバック機能を持った機材であれば、PCの音を配信することは可能ですが、ゲーム音、Zoomからの音、BGMの音量バランスを調整するとなると、何をどうしていいやら、頭が混乱しそうです。

そのゲーム音、Zoomからの音、BGMの音量のバランスをフェーダーを使って即座に行うことができるのが、このAG08なんです。しかもZoomの接続相手には本人の声は戻さずに、こちら声とゲーム音を送る……なんてフレキシブルな設定が可能なのが、AG08なのです。なんとなく、想像がついてきたでしょうか?

ここでドライバの話に戻しましょう。たとえばWindowsから見ても、Macから見ても

AG08 CH3/4
AG08 CH5/6
AG08 CH7/8

と3つのドライバが見えるというか、3つの別々のオーディオインターフェイスが接続されているかのように見えるのです。そこで、ゲームの音の出力先はCH3-4に設定し、BGM用のプレイヤーソフトの出力先はCH5-6、さらにZoomはCH7-8としておけば、それらがAG08のフェーダーに立ち上がってくるのです。つまり、PC上で動いている各種ソフトのミックスバランスをAG08のフェーダーで操作できるというわけなのです。

Windowsの出力先としてAG08が3つ見えている。Macでも同様

もっとも、フェーダーはCH1、CH2がモノラルで1つずつ、CH3/4、CH5/6、CH7/8がそれぞれステレオで3つの計5本なので、これらを効率よく利用するためにCH3/4、CH5/6、CH7/8にはそれぞれLINE/USBという切り替えボタンが用意されています。つまり、これをUSBに設定することで先ほどのPCからの音がフェーダーに立ち上がり、LINEにするとAG08のリアに接続されたライン入力に切り替わるという形です。

PCの入力としてAG08が3つ見えている(Macの場合はDAWを入れると4つ)

PCからの出力先ドライバが3つある一方で、入力元としても3つ見えるというのもAG08ならではの特徴となっています。こちらは

AG08 Streaming
AG08 Voice
AG08 AUX

となっていて、先ほどの出力先とはちょっと違う意味合いになっています。それぞれを示したのがこの図です。

Streaming、Voice、AUXと3系統でPC側へ流れていく

お分かりいただけるでしょうか?StreamingはOBSなど、まさに配信をするためのソフトへ送るたものものとなっており、CH3/4、CH5/6、CH7/8ではSTREAMINGというスイッチをオンにすることで、流すことができる仕掛けになっています。つまり、Zoomで接続している相手の声を配信に乗せたくないときは、これをオフにすればいいというわけなのです。

一方で、VoiceはCH1とCH2だけが送られる形になっています。Zoomなどで会話している人も一緒にオンラインゲームをしている場合、配信者側のゲーム音をZoomに返してしまうと、ゲーム音が二重に聴こえてしまうので、Voiceでは、配信者側の声のみを返す設計になっているわけです。

さらにAUXはCH7/8以外となっています。つまりZoomの接続相手に、自分の声だけループバックしないようにした上で、こちらの声はもちろん、ゲームの音やBGMなどもすべて届くようにすることができるというわけなのです。かなりよく考え抜かれた設計になっていますよね。

こうしたことはAG03MK2やAG06MK2はもちろん、ほかのミキサーやオーディオインターフェイスもできないAG08ならではの機能なので、アイディア次第でさまざまな使い方ができそうです。

このようにPC側とのやりとりを自在に設定できるのがAG08の一番の面白さであり、一番の凄さなわけですが、その上にさらにAG03MK2やAG06MK2にない、SOUND PADというものが搭載されています。これは本体右下にある6つのボタンで、これらを押すとデフォルトで、「ジャジャン!」「ピポピポン」「ブブー」といった効果音や拍手、歓声などが鳴るように割り当てられています。

押すと効果音を鳴らすことができるSOUND PAD

他社製品でも、こうしたパッドでポン出しができる機材がいろいろ登場してきていますが、このAG08で特筆すべきは、この機能をAG08本体が持っているという点です。つまり、AG08 Controllerというアプリを使ってAG08内のメモリにWAVやMP3、FLACのファイルを転送しておけば、PCとのUSB接続を切り離しても使うことができるようになっています。もっとも、ここに入れられるのは最大5秒となっているので、曲を丸ごと入れてしまう……といったことはできません。

SOUND PADには好きな音素材を割り当てることが可能

もう一つのユニークな特徴がAG08に搭載されたエフェクト。前述のとおりAG03MK2やAG06MK2にもEQ、コンプ、リバーブ、そしてギターアンプシミュレーターが搭載されているわけですが、AG08でももちろんそれらは踏襲しつつ、さらに強力なものとなっています。その強化されている中でも目玉となるのがボイスチェンジャー/ボイスエフェクトです。

PITCH、FORMANTパラメータを動かすだけでマイクからの声を自在に変化させることが可能

これをオンにすると、本体左側にあるPITCHパラメータとFORMANTパラメータを使うことで入力される音声のピッチを±1オクターブの範囲で変化させたり、フォルマントを変えることで男性の声を女性の声のようにしたり、その逆ができたり、もちろんロボットボイス風なものにできたりと、簡単に操作できるのです。

AG08 Controllerを使うことで、AG08内部のDSPを使った細かな音作りが可能

さらに、ボイスエフェクトのほうを使うと歌声をさまざまに変化させることも可能になっています。Dual Pitchを使えば声をダブリングした上で、それぞれのピッチや音量を変化させることができます。Radio Voiceにすれば、AMラジオを通したような帯域が狭くちょっとフィルターをかけたような声になるし、Tremoloではトレモロがかかり、Pitch Fixではキーとスケールを設定した上でそれにマッチした声に変化させるAutoTune的なことが可能になっています。

VOICE EFFECTを使うことでピッチ補正などさまざまな効果を出すこともできる

これらもボイスチェンジャー、ボイスエフェクトもすべてAG08内部に搭載されているDSPを使って処理しているので、PCに負担をかけることなく、操作できるのも嬉しいところ。さらに、ディレイ、コーラスが使えたり、DUCKER機能といって、声が入ると流れているBGM音量が下がるコンプレッサのサイドチェイン機能も搭載されています。ストリーミングの最終段にはマキシマイザーも搭載されるなど、まさにAG08ひとつですべての音声処理を可能にした強力な機材なのです。

マイクからの入力音量をキッカケに入力ソースの音量を下げることができるDUCKER機能

ちなみに、このAG08をDAWから見ると、AG08の全体像が把握できます。この画面のように14in/8outのオーディオインターフェイスとして見ることができるようになっているのです。なぜ入力が14もあるのかというと、AG08を普通のミキサー的にみた外部から8入力に加え、前述のStreaming、Voice、AUXのそれぞれのL/Rがあるので、計14も入力があるように見えるというわけなんですね。これらをどう活用するかはユーザー次第ですが、DTM系ユーザーにとっては、ゲーム配信ならぬDAW配信が可能であることも見逃せないポイントです。つまりDAWから音を出しつつ、マイクでしゃべったり、ZoomやDiscordなどで遠隔接続した友人にも出演させてOBSで配信ができるというわけなのです。

DAWから見ると14in/8outのオーディオインターフェイスとして見え

ただし、このDAWの利用において1点だけ注意しなくてはならないのはAG08の動作が48kHz固定であるということ。これだけパワフルにエフェクト処理やオーディオ処理を内部でこなすだけあって、96kHzや192kHzにすると処理能力が追い付かなくなるため48kHzに制限をかけているんですね。そのためDAW配信で既存のプロジェクトを利用する場合には、あらかじめ48kHzにリサンプリングするなどの準備が必要となるので、気を付けてください。

以上、AG08について紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?このAG08の音質性能やレイテンシーなども優秀なものでしたが、これらの詳細は以前AV Watchで私が書いている連載、Digital Audio Laboratoryで取り上げているので、ぜひ参考にしてみてください。

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AG08製品情報

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