楽器フェア直前にローランドから発表され、非常に大きな話題になったSound Canvas for iOS。これを見て、非常に懐かしい思いに浸っていた人も多かったのではないでしょうか? Sound Canvas for iOSはiPadおよびiPhoneで動作し、インサーション・エフェクトを含め、SC-88Proの音色をかなり忠実に復元しているというもの。

ローランドによると、近いうちにAppleのApp Storeでの販売をスタートさせるそうなので、とっても待ち遠しいところです。まだ価格などは明らかになっていませんが、かなり手頃な価格で販売するとのことなので、期待したいですね。実は、そのSound Canvas for iOSの登場と呼応する形で、その昔、NIFTY-ServeFMIDIにいた人たちが集まってFacebook上での活動を開始しているようなのです。私もとりあえず参加してみたので、どんなことが起こっているのかを紹介してみましょう。


NIFTY-ServeのFMIDIが復活した!?

先日の記事でも紹介した通り、Sound Canvas for iOSSC-88Proのサウンドを再現するアプリで、音色配列は、もちろんGS準拠。SC-88Proと同様に、SC-88Proマップはもちろんのこと、SC-88マップ、SC-55マップ、さらにはCM-64配列などがあり、SC-88Proでの音色切替と同じように使えるようなっています。さらに、SC-88Proより後に登場したSC-8820SC-8850の音色も収録されており、トータル1600音色となっています。


Sound Canvas for iOS(iPad版)の画面はSC-88Pro風になっている

ただしSC-88Proとまったく同じものをエミュレーションしているというわけではないようで、ある意味、音質は向上しています。その最たるものがリバーブ。いまのiPadやiPhoneのCPUパワーなら、SC-88Proよりも高品位なリバーブが実現できるため、結果的にいい音になっているんですね。またiOSの仕様の問題もあり、扱えるのは16chまで。16ch×2系統=32chが扱えたSC-88Proとはここが大きく異なる仕様となっています。

 

とはいえ、気になるのは、このSound Canvas for iOSが当時のSC-88ProやSC-55mkII用に作られたデータをどのくらい忠実に再現できるかという点です。ローランドの開発チームでも、その点は気になって昔のデータを再生させて検証していたそうです。ただ、細部の評価はやはりデータを作った人にしかわからないだろうと、当時の作者に連絡を取って音を聴いてもらっていたのですが、そこで声をかけたのがNIFTY-ServeのFMIDIORGで活動していた人たちだったんですね。


モデムでNIFTY-Serveのアクセスポイントに接続後、こんな画面でログインした。このIDは私が当時使ってたもの 

ご存じない方に簡単に説明しておくとNIFTY-Serveとは現在の@niftyの前身であり、インターネット以前の時代の大手ネットサービス。電話回線とモデムを使って接続してコミュニケーションをとっていたパソコン通信と呼ばれたサービスです。私も1988年ごろから10年程度、毎日のようにアクセスしていましたが、そのNIFTY-Serveの中のコミュニティーの一つとしてMIDIフォーラムFMIDIという集まりがありました。

MIDI、コンピュータミュージック、DTMといった内容について情報交換をしあうと同時に、自分たちで作ったMIDIデータの発表の場となっていたところです。このFMIDIも時代ともに大きくなり、その構成も変遷していったのですが、全盛期には
   FMIDICLA: MIDI Classic Forum 
   FMIDIDAT: MIDI Data Forum -Japan- 
   FMIDIDF: MIDI Data Forum -Foreign- 
   FMIDIINT: MIDI International Forum 
   FMIDIKB: MIDI Keyboard Forum 
   FMIDIKGM: MIDI Forum KORG GMデータバンク 
   FMIDIORG: MIDI Original Forum 
   FMIDITOL: MIDI ツールフォーラム 
   FMIDIUSR: MIDIユーザーズフォーラム 
   FMIDIVA: MIDI Vendor Forum A 
と分化し、クラシックについては、FMIDICLAで、著名楽曲のコピーはFMIDIDATで……というように、それぞれのコミュニティーの中でやりとりされていたんですよね。

今回、ローランドの担当者が声をかけたというFMIDIORGは、ユーザーがオリジナル曲を作って発表する場となっていました。ここにMIDIデータをアップロードして、みんなが聴けるようにしていたわけです。ここから数多くの名曲が生まれていったのですが、これらデータを再生する標準機となっていたのが、Sound Canvasシリーズだったのです。


Sound Canvas for iOSのMIDIファイル再生機能を利用してFMIDI当時のデータをチェックしていったとのこと 

FMIDIORGのシスオペ(システムオペレータの略で、管理人のことですね)も担当されたことがあるという、さとしさんは「今から思うと、よくもまああんな環境で、皆さん凄い曲を打ち込んでいたなぁと思います。パソコン通信という繋がりだけで日本中の人と音楽のやり取りができたことが、本当にいい思い出です」と振り返っていました。


私の手元に残っているSC-55(初代機)とSC-88Pro

さとしさんと同様にローランド担当者から声をかけられた清水さんも「私がFMIDIORGに顔を出すようになったのは、子龍さんに誘われてのことでした。それまで、楽器のシンセとMTRで宅録していた私は、91年末、子龍さんのCM64やSC-55を鳴らした作品に衝撃を受け、FMIDIに来て、夢中で感想を書いたり、曲をアップしたりしていました」と20年以上前のことをつい最近のことのように語っていました。

さとしさんはSC-55 SC-55mkIIを清水さんはSC-55からSC-55mk2、さらにSC-88、SC-88Proと買い換えていったそうですが、私の手元にも初代SC-55とSC-88Proがしっかり動く形で残っていますよ。


みんなが打ち込みソフトとして使ったカモンミュージックのレコンポーザ、RCP-98 

当時は、パソコンといえばNECのPC-9801シリーズが全盛期であり、その上で動く、MIDIシーケンサであるレコンポーザ(カモンミュージックが開発)やBALLADE(ダイナウェアが開発)といったものを使って、みんな曲を打ち込む一方、さまざまなデータを再生できるフリーウェア、MIMPI(斎藤さん開発)など使って聴いていたんですよね。


手元に動作するPC-9801がなかったけど、古いCOMPAQのDOS/V機を使ったらMIMPIが動いてくれた! 

その当時のデータをメールなどでローランドに渡し、それをローランド側で開発中のSound Canvas for iOSのプレイヤー機能で再生した音をSound Cloudにアップして聴くというやり取りをしていたようです。実際、音を聴いてどうだったのでしょうか?
 

さとしさんの楽曲「Seaside Avenue(MM.MID)」をSound Canvas for iOSで再生し、録音した音

まずは音質に驚きました。リバーブの質も良くなり、自分の曲が良くなったように感じます。また細部にハードとは挙動が違う部分もありましたが、デバッグにより精度がどんどん上がってますので仕上がりが楽しみです。基本的にあの音が出てるというのに感動です」(さとしさん)


画面のデザインは少し変わるが、iPadだけでなく、iPhoneでもまったく同じ音源として動作する
 

これまでの、VSCや、TTS-1などとは、レベルが違うと思いました。無印SC-55用の曲は88系の55モードではニュアンスが多少異なりますが、iOS版もそのレベルで、『十分聴くに耐える音』だと思いました。逆に、仕様が良くなっている分、良い音になっている部分もあるのかな、とも思いました。とにかく、以前、四苦八苦してVSCやTTS-1と格闘したことを思うと、十分満足できるレベルだと思います。88Proがプロの方にも用途によっては重宝されるのと同様、このiOS版も、ある程度レベルの高い音質のインストゥルメントをマルチに使える、十分リーズナブルな音源だと思います」(清水さん)

と二人とも評価は高いようですね。そうした中、清水さんが中心となり、FacebookグループとしてFMIDIRBNというものを立ち上げています。FMIDIRBNとは「復活MIDIフォーラム=FMIDI Reborn」を意味しているそうで、現在は申請すれば誰でも入ることが可能なサイトとなっています。

 

GS音源に馴染んていた世代は、VSCなどでしばらく落胆していた時期があったと思いますが、今回“使い物になる”iOS版が出て、またちょっと何かしたい虫が疼き出したと思うのです。当時のハードのパネルの雰囲気を忠実に再現したルックスもデジャヴを感じさせてくれて、当時の熱い想いを再燃させてくれるのだと思います」と清水さん。現時点はまだ参加者50人程度ですが、FMIDIRBN上にMIDIデータがUPされたり、ここにリンクする形で数多くの昔のデータが公開されるなど、いろいろと面白くなってきています。

Sound Canvas for iOSの音の検証をきっかけに、かつての仲間がどんどん集まりました。20年たっても変わらず同級生の集まりのように、熱く盛り上がってきています。何も変わってないじゃないか!と思い、いい意味であの日の続きがまた始まった、私は単純にそういう気持ちです」と現在FMIDIRBNの管理人になっている、さとしさんも語ります。

Sound Canvas for iOSが正式にリリースされると、このFMIDIRBNへの参加者もグンと増えていくのでは……と思いますが、まずはこのアプリが早く登場してくれることを楽しみに待ちたいと思います。

【関連サイト】
FMIDIRBN(復活FMIDIフォーラム)

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