DTMで「なかなか難しいな……」といつも感じるのが、「譜面をどうやって演奏させるか」ということです。もちろん、難しいからこそ面白いところでもあるのですが、同じ譜面でも、それを実際の音で鳴らしたときにどうなるのかは、人によって表現方法も、音もまったく違ってくるんですよね。

譜面では、音符の長さが何msecか、というように厳密な時間は決められてないし、ffとか、mpと書かれていても音量が何dBかハッキリ決められているわけもありません。もちろん音源や音色だって何を選ぶかで出音はまったく変わってくるし、エフェクトの設定やミックスによっても音は大きく違ってきます。つまり譜面を読む人、解釈する人によって、最終的な音楽はまったく違うものにもなるわけです。そこで、譜面とMIDIデータ、そして最終的な音楽作品がどんな関係にあるのかを考えてみたいと思います。


譜面とMIDIデータ、そしてそれを演奏した音楽にはどんな違いがあるのでしょうか?

譜面を演奏する、演奏させる表現方法は100人いれば、100通りあるものですよ。でも譜面を作った作曲者には、頭に描いている音楽があるし、そこにはいろいろな意図も含まれているんです。作曲者としては、自分の思いをしっかり汲んでくれるか、さらには発展させてくれるのか、という点に興味があるんですよ」と語るのは作曲家の外山和彦(とやまかずひこ)さん。

外山さんはCM(大和証券、セキスイハイム、パナソニック「Vieraにリンク」など)やアニメ(エデンズボウイ、宇宙戦艦ヤマモトヨーコ、新キューティーハニーなど)、テレビ(ぶらり途中下車の旅、ジェットマン、おいしい女に御用心など)、ゲーム(ファイナル・ファンタジーシリーズのオーケストラアレンジ、ダービースタリオン2、ガンナーズヘブンなど)とさまざまな楽曲を手がけてきたベテラン。

その外山さん、実はMIDI検定1級で出題される譜面を初回からずっと作り続けてきた方でもあるそうです。MIDI検定1級というのも、なかなか馴染みがないので、どんな出題をして、どんな採点をしているのかも気になるところ。先日お会いした際、「ちょうど、今年の1級の譜面ができたところだ」とおっしゃっていたので、少しお話を伺ってみました。


作曲家の外山和彦さんに、お話を伺ってみました 

--MIDI検定1級って、どんな試験をするものなのですか?
外山:譜面を出題するので、それを元にMIDIで打ち込んだものをMIDIデータとして提出してもらうとともに、その譜面を演奏したものをオーディオとして提出してもらうというのが試験内容です。昨年は弦楽合奏でしたが、その前はビックバンド、またロックやポップスなど、さまざまなジャンルの楽曲を出題しています。今年の譜面は、ここにあるんだけど、まだ内容は言えませんよ。ただ近い将来、広く活用されるジャンルの音楽ですね(笑)。

--その譜面はクラシックであったり、誰でも知っている曲なのですか?
外山:いいえ、これは私が、このMIDI検定1級の試験のためだけに書き下ろしたオリジナル曲です。だから、誰も聴いたことがないし、目的地の分からない地図を渡されたようなものだと思いますよ。ここから、作曲者の意図を汲み取った上で、しっかりとした音楽として演奏してもらいたいのです。演奏者として、また指揮者としてこの譜面に挑んでもらうわけです。指揮者の指示によって、各音を奏でてもらうのですが、ここにはさまざまな知識や経験も重要になってくるんですよ。

--たとえば、どんな知識、経験ということですか?
外山:そうですね、サックスのパートがあったとしましょう。でもそれがオーケストラの中で登場するサックスなのか、スウィングのジャズなのか、モダンのジャズなのか、またロックなのか、ファンクなのかによって、演奏の仕方も音も変わってきます。実際の奏者は、それを理解して表現しているわけですから、それを表現して欲しいのです。


MIDI検定1級の合格者には、こんなカード型の合格証が届く

--とはいえ、細かな音色の違いまでをMIDIデータとして表現するのは無理ですよね?
外山:だからこそ、MIDIデータとともにオーディオデータを提出してもらっているんです。これはMIDI検定ですから、譜面をまずMIDIデータ化するのは基本中の基本。そこで正しいMIDIデータとして完成されているかをデータとしてチェックする一次審査を行います。それに合格した人のオーディオデータを二次審査で審査員が聴いて評価する形になっています。私が担当するのは二次審査のみなので、MIDIデータのほうはまったく見ずに、音だけを評価しているんですよ。

--そのオーディオデータは、一次審査用に提出するMIDIデータを特定の音源で鳴らしたもの、ということなのでしょうか?
外山:オーディオデータのほうは、まったくの自由です。だから、どんな音源を使ってもらってもかまわないし、エフェクトを使っても構いません。どうやってミックスし、マスタリングをしたかによっても音は大きく変わってきますから、そこまでを見ていきます。でもこの音を聴くことで、先ほどのサックスの話のように、それぞれの楽器、音の役割をしっかり理解しているのかがハッキリ分かってしまいます。たとえばユーフォニアムをまったく知らない人が、音色だけユーフォニアムを選んで鳴らしても、ユーフォニアムの演奏にはなりません。各楽器固有の特徴や演奏の仕方などをしっかり抑えておかないとできないんですよね。

--極端な話、全部MIDIで鳴らさなくてもオーディオでサックスやユーフォニアムを生でレコーディングしてしまえばいいということですか?
外山:それができるのならば、そうしてもらっても構いませんよ。ただし、MIDI検定ですからMIDIデータの提出は必須だし、MIDIデータの審査を通らないとオーディオデータは審査すらされませんからね。そこはバランスをとって取り組んでください。

--その話で、もうひとつ気になるのが音源です。高級な音源を使うのと、貧弱なものを使うのでは、音楽としての完成度にも違いがでてきますよね?その辺はやはりいい音源を揃えないといけないのですか?
外山:これも音楽の表現方法のひとつだと思います。自分の納得のいく音楽に仕上げるために、新しい音源を入手するのもよし、低予算で精一杯頑張るのもよしです。我々が審査する上でも、どんな音源を使っているのかなど、エントリーシートはチェックします。「Vienna Ensemble Proを使っているのに、この程度なのか…」ということもあれば、「古いGM音源を使って、これだけの表現力を出せるとは…」ということだってあります。画一的に完成した音楽だけを聴くのではなく、どんな機材を使い、どう頑張っているのかを評価しています。ぜひ音楽を科学して欲しい!

--音楽を科学するとは、どういう意味ですか?
外山:今まで僕らは、ことあるごとに、実力をひけらかせ、「音楽は感じるものだ」「音楽は素敵なんだ」なんてことを言ってましたが、「じゃあ、いい音楽って何?」という原点に立ち返って疑問・質問を投げかけてくれるのがMIDIであり、シンセの分野じゃないかなと思うのです。楽器を練習して上手になることは大切ですが、オーケストラのすべての楽器を上手にプレイできるようになるのは現実的ではないでしょう。私も全部は弾けません。でもMIDIやシンセを使って、演奏させることは可能だし、そこにさまざまなテクニックをつぎ込むことで、いい音楽を奏でることは可能になると思うのです。だからこそ、私の最近のキーワードは「音楽は科学である」ということなんですよ。

--たとえば譜面どおりではないけれど、多少アレンジをして、より「いい音楽」にするという手段もあると思いますが、そうしたことはMIDI検定1級の試験という意味で評価されるのでしょうか?
外山:最終的にどんな音楽になっているかにもよりますが、私個人的には評価しますよ。ただし、これはMIDI検定1級ですから、最低限守らなくてはならないルールがあります。そのために一次審査があるわけで、100点満点中の90点分を一次が受け持ち、80点以上でないと一次審査は通りません。私が評価する二次審査はそれに加点するためのものなので、その比重は考えて挑まないといけませんね。MIDIデータを見る一次審査は、ある意味、工業規格に準拠しているかどうかのチェック。そこを通過した上で、どこまで音楽表現を盛り込めるかを見ていくわけです。

2014年に出題された譜面の一部 

--実際、同じ譜面の出題で、一次審査を通過したものでも、二次審査で合否が分かれることもあるわけですよね。ある意味、審査員である外山さんの主観というものが大きいような気もしますが……。
外山:音楽を聴いて評価するのですから、主観での判定です。そのため一人で審査をするのだと、問題が生じてしまいます。そこで毎回5人の審査員で評価を行い、S、A、B、C、Dの5段階で採点するという仕組みになっています。さらにスポーツ競技での採点などと同じく、最高点を出した審査員と最低点を出した審査員を除外した3人の審査員による点の平均で採点し、できるかぎり不公平、偏りが生じないようにしています。でも、実際に音を聴いてみると、同じ一次審査を通ったものでも、単にMIDIデータを再生したに近いものと、しっかり音楽として作り上げているものがあるのは分かります。ちょっとサンプルを用意してみたので、聴いてみてください。これは2014年出題のものの一部ですが、分かりますよね。
※下記のサンプルは日本シンセサイザー・プログラマー協会が作成した例です。


 
--なるほど、確かに同じ譜面であっても、表現力が明らかに違いますね。まったく聴いたことのない曲を譜面から実際の形にするというのはチャレンジングではありますが、すごく面白そうでもありますね。まさに自分の実力試しという感じで……。
外山:そうなんですよ。実際、MIDI検定1級を受験される方は、合格・不合格に限らず、この譜面を元に音楽を作り出すことを楽しんでいらっしゃる方が多いようです。この譜面は、試験終了後も基本的には音としては公開していないので、実力試しのために、過去問を購入される方も多いと聞いています。音楽の勉強がMIDI検定1級の試験を通じてできると考えると、合格するかどうかよりも、面白いかもしれませんよ。

--でも、合格したかどうかだけでなく、自分の作り上げたMIDIデータ、そしてオーディオについての客観的な評価についても知りたい気がします。
外山:一次審査を通過した人だけ、つまり二次審査に入った人に限定されますが、われわれ5人の審査員による評価、コメントはすべて受験者へフィードバックされる体制にしています。採点においては最高点を付けた人と最低点を付けた人は除外されると話ましたが、除外された審査員も含めて全員のコメントなので、それなりの重みはあると思いますよ。審査員は全員プロの人たちですからね。


二次審査に入った人には、審査員の5人から評価やコメントが返ってくる 

--このシートが返されるのですね。外山さんのほか、篠田さん、北城さん、大浜さん、青山さんと、そうそうたるメンバーですね。こうしたみなさんからのコメントがいただけるのなら、それだけでも大きな価値がありそうです。もちろん一次審査を通過させないといけないですが……。
外山:このMIDI検定1級を受験するには、事前にMIDI検定2級の試験に合格していないといけないという条件もあるのですが、2級の実力があれば、ミスさえしなければ、一次審査はパスできるはずです。ぜひ、多くの方にチャレンジしていただき、譜面から自分の音楽を生み出す楽しみを味わっていただければと思っています。

--本日はありがとうございました。

以上、MIDI検定1級の試験がどうなっているのか、という話を元に譜面をMIDIデータ化し、さらにはそれを音楽として表現するのはどういうことなのかを考えてみました。譜面に何の表現も加えず、ただ機械的に入力することを「ベタ打ち」などと表現しますが、それをどうやって表現を付けて、音楽として完成させていくかには、正解があるわけではないし、人によってそれぞれ。どんなツールを使うかによっても、大きく変わってくるから面白いんですよね。いきなり1級を受験することはできないそうですが、自分の実力試しとして2級、そして1級と取り組んでみる価値は大きいように思いました。

【関連情報】
MIDI検定公式サイト
一般社団法人音楽電子事業協会サイト
日本シンセサイザー・プログラマー協会サイト
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