Lynx製品、国内のDTMの世界ではあまり登場することはありませんでしたが、放送局やマスタリングスタジオなどで数多く採用されています。とくに2004年に登場し、いまだ現行製品であるAD/DAのAuroraは、海外で1,000以上のスタジオで導入されてきた実績を持っていているのだとか……。そのAuroraが先日、Thunderbolt(サンダーボルト)に対応した、というニュースが流れていましたが、これはどんな意味を持っているのでしょうか?製品の価格レンジ的に、一般ユーザーがなかなか手を出せるものではありませんが、オーディオインターフェイスの今後を考える上で、一つの大きなトピックスのように思えたので、少し考えてみたいと思います。
私のような凡人には、音の違いはなかなか分からないのですが、マスタリングエンジニアやオーディオのプロという人と話をすると、よく「USBオーディオの音は、どうも何かがよくない……」なんてことを言われます。個人的には違いがよく分からないけれど、「PCI接続のインターフェイスのほうが絶対音がいいから!」と言われて聴くと、そんな気もしてくる……。とっても優柔不断で、オーディオ評論家には絶対なれないな、と思う次第です(汗)。
2003年のAV Watchの連載記事で取り上げたLynx TWO
しかし、いまやUSB全盛の時代。ノートPCはもちろんのこと、デスクトップPCだって、小型化が進んだ今、WindowsもMacも内蔵のPCI Expressのスロットがないものが多くなっており、PCI Express接続のオーディオインターフェイスなど絶滅危惧種となってきています。そうした中、Lynxが選んだのがThunderboltだったのです。
Thunderboltは、インテルとアップルが共同で策定した高速汎用データ伝送の規格。いまのMacであればMac BookでもMac miniでもMac Proでもすべて標準で搭載されている接続ポートであり、Windows PCでもThunderbolt搭載のものがチラホラと出てきています。私が持ち歩きデスクトップPCとして愛用し、隔週で行っているニコニコ生放送のDTMステーションPlus!のスタジオにも持ち込んでいるインテルのPC、NUCにもThunderbolt端子が搭載されていますよ。
では、どうしてPCI/PCI Express接続にこだわってきたLynxがThunderboltを選んだのか。聞いてみると答えは明快でした。「Thunderboltは内蔵バスそのものだから」だそうです。実際、Thunderboltを介してPCI Expressカードが使用可能になるPCI拡張ボックスというものが、複数メーカーから出ていることからも分かる通り、PC内のCPUから直接、信号を引っ張り出す規格がThunderboltなんですね。
しかもThunderboltはPCI Express x16よりも遥かに強力。そう、ThunderboltはFireWireのようにデイジーチェーンによって数珠つなぎに機材を接続していくことができるのです。今回登場したAurora 16 TBであれば、1台のPCに最大6台まで接続でき、これによって24bit/192kHzを192chまで同時に録音・再生することができるというのですから、すごいですよね。
この辺が、あくまでもUSB 1.1/2.0の高速版という位置づけのUSB 3.0との違いなんだそうです。
先日の記事でも取り上げたapollo twinもThunderbolt対応
ただし、Thunderboltであれば、どれでもCPU直付けのようなものなのか、というと実際はそうではないようです。物理的にはThunderboltの端子を使っているけれど、内部的・論理的にはFireWireを経由しているというオーディオインターフェイスもいくつかあるようで、外見やスペックからは見分けが付かないのが難しいところです。その場合、メーカーはドライバを開発する上でFireWire用のドライバを改良するだけで使えるというメリットはありますが、FireWireがボトルネックとなってしまうため、PCI接続による安定性の実現というのとは違ってきてしまいます。
それに対し、LynxはもともとPCI/PCI Expressのドライバ開発に定評があり、長年の実績があるメーカーなので、PCI/PCI Expressのドライバ資産をThunderboltでも利用可能というわけなのです。実際、Lynxは今回、インテルとアップルによる強力なサポートの元、PCIのドライバをベースにして製品開発をしているようです。
が、その製品のシステム構成がなかなかユニークなのです。そうLynxはオーディオインターフェイスメーカーであると同時に、AD/DAのメーカーとして大きな実績を持っています。冒頭でも触れたように、2004年にリリースされたAuroraは、世界中の多くのマスタリングスタジオで採用されている製品で、現行製品。S/PDIFのプロ版であるAES/EBUの信号をアナログに変換する機材であり8chのAurora 8と16chのAurora 16があるのですが、なんとそのAuroraシリーズをThunderbolt接続のオーディオインターフェイスにしてしまったのです。
既存のハードウェアのスロットにLT-TBという名前のThunderbolt対応カードを刺しただけ
従来、AuroraをPCと接続する場合は、PCI Express接続のAES/EBUインターフェイスであるAES16を介して繋いでいたのですが、その機能が内蔵されてしまった格好です。ちなみに、製品としてはLT-TBオプションをあらかじめ内蔵した製品が登場。価格はいずれもオープンとなっていますが、8ch版のAurora 8 TBの市場実勢価格が250,000円、Aurora 16 TBが350,000円だそうです。
以上、Lynxが出したThunderbolt対応の高級オーディオインターフェイス、Aurora 8 TB、Aurora 16 TB、Hilo TBを例に、オーディオインターフェイスにおけるThunderboltの意義について考えてみました。まだ、自分でもしっかり使っているわけではないので、分からないこともいっぱいですが、今後もThunderboltについては、いろいろと情報を追っていきたいと思っています。
【製品情報】
Aurora 8/16製品情報
Hilo製品情報