2019年、OH MY GIRLの日本デビューアルバムに収録された「抱きしめるの」で作家デビューし、以降Hey! Say! JUMP「Never end…」、私立恵比寿中学「Summer Glitter」、フィロソフィーのダンス「サンフラワー」、EBiDAN「More Than Precious」、JKT48「Dai Dai Dai」と、幅広いアーティストへ楽曲を提供してきた作曲家、宇野水木(うの みずき)さん。2026年には岡田紗佳「カケヒキ・フライディナイト」で作詞・作曲に加えてボーカルディレクションと楽曲プロデュースまで手掛けるなど、ソングライターからプロデューサーへと活動の幅を広げつつあります。
3歳からヤマハに通い、ヤマハ・グレードのコースで聴奏や編曲まで学んだ一方で、大学の専攻は美術史。卒業後はWebや冊子の編集、映画の宣伝の仕事を続けながら、作曲だけは手放さずに続けてきたという異色の経歴の持ち主でもあります。そんな宇野さんに、なぜ社会人になってから職業作曲家になれたのか、100曲目で決まった初採用の裏側、得意ジャンルに絞ってから採用が続くようになった理由、そしてチームで曲を作る現場が実際にどう動いているのかまで、じっくりとお話を伺ったので、そのインタビューの模様を紹介していきましょう。
ピアノに挫折して、バンドも空中分解、それでも続けていた作曲
ーーHey! Say! JUMPやOH MY GIRLの曲を手掛けている宇野さんですが、まずは音楽との出会いから伺わせてください。子供のころ、どんなきっかけで音楽を始めたのですか?
宇野:父親の影響です。歌を教えたり審査員をしたりしているので、私も小さいころから一緒に歌っていました。また父は、ギターも弾いていたのですが、ピアノは弾けなかったので、それもあってか私をヤマハのピアノ教室に通わせてくれました。それが3歳ごろのことだったと思います。その後、7歳ごろからは、音楽理論も身につけてほしいという希望で、聴奏や編曲を学ぶヤマハ・グレードのコースにも通い始めました。
ーー作曲はいつから始めたのですか?
宇野:小学生のころにはもう作っていました。当時はポエムを目にする機会が多くて、それを見るとつい曲を付けてしまう子でしたね。そんな調子で、気がついたら自然に作曲を始めていました。小学校3、4年生のときには、ヤマハの作曲コンクールにも出たのですが、作曲は得意でも、ピアノの方は思うように弾けなくて。本番で手が止まってしまい、それもあってコンクールからは離れてしまいましたね。
ーーピアノよりも作曲が好きだったんですね。
宇野:その通りです。中学に入ると、友達が歌詞やポエムを書くようになったので、それに曲を付けてあげて、楽しく過ごしていました。そして、よくある話ですが、高校生になると周りはバンドを始めるんです。私もバンドに入ってみたりしましたが、作曲は得意でも、ピアノがすごく上手いわけではないし、歌も音程は外さないけれど声量があるわけではない。なので、あまりバンドには向かず、すぐに空中分解してしまう。それが2、3回続いて、バンド活動は諦めました。高校もその後の大学も、たまに曲を作って、たまに自分で弾いて歌う。そんな程度でしたね。
ーーちなみに大学では、何を専攻していたのですか?
宇野:専攻は美術史です。直接音楽ではありませんが、芸術自体には興味があったので、大学ではそれを学びたいと思って選びました。音楽からは少しずつ距離を置くようになり、卒業後は編集の仕事に就きました。最初はWebマガジンの編集部です。1つの企画会議に何時間もかけるような職場だったので、どうせ時間をかけるなら好きを追求したい。そう思って映画会社に移り、宣伝を担当したり、映画関連の冊子を作る編集部で働いたりしていました。
ーーとはいえ仕事をしながらでも、音楽は続けていたんですよね?
宇野:細々と続けていました。バンドメンバーの募集を見つけては応募して、短い期間ですがライブをしたこともあります。経歴に書けるようなことは何もしていないのですが、自分の中ではずっと続けていたんです。でも、こんなに音楽が好きなのに、生かせる場所がない。そう思っていたときに出会ったのが、山口ゼミでした。
音大出身でなくても作曲家になれると知った、山口ゼミとの出会い
ーーその山口ゼミは、どこで知ったのですか?
宇野:知ったのは、オンライン講座のサイトでした。以前勤めていた会社の同僚たちが作っていたサービスだったので、よくチェックしていたのですが、そこに山口ゼミが紹介されていました。Webで受けられるのかと思って見てみたら、Webだけでなく、真鶴で1日のキャンプもあるという。それならと、まずキャンプに行ってみました。
ーーいきなり真鶴のキャンプに飛び込んだわけですね。
宇野:1日の体験コースだったのですが、その1日でいい曲ができてしまいました。それで、曲を作りたいという気持ちが久しぶりに湧いてきて、このゼミは絶対に受講しなければ、と思いました。ただ、募集は3か月ごとで、そのときはまだ出ていなかったんですね。いつ出るのかをチェックし続けて、出たタイミングですぐに申し込みました。
ーー実際に山口ゼミに入ってみて、印象はどうでしたか?
宇野:最初に驚いたのは、音楽が好きなだけでも作曲家になっていいんだ、ということです。それまで私は、作曲家は音大を出た人しかなれないと思っていましたから。
ただ、同期を見ると、15人ほどのうち藝大や音大の人もいれば、すでに音楽の仕事をしている人もたくさんいました。半分プロのような人が多くて、中でもゲーム音楽を作っているけれどポップスにも挑戦したい、という人が目立った印象です。それでも講師の伊藤涼さんは、音大出身かどうかではなく曲だけを見て評価する方でした。だから、音大出身でないことに引け目を感じなくていいんだ、と思えました。
ーーそんな同期に囲まれて、手応えはありましたか?
宇野:ありました。私は音楽をやめていたわけではなく、ずっと今の音を聴き続けていたので、今どきのメロディーはこういう感じだよね、という感覚は持っていました。
ちょうどそのころ、歌詞に俳句のような言葉を取り入れる曲が流行っていたので、私も俳句を使った歌詞の曲を出してみました。すると、伊藤さんに「面白い」と言ってもらえたんです。伊藤さんはすごく辛口な方で、ほかの人の曲には「ちょっとメロディーが古いんじゃない」と言うこともあったのに、私の曲は褒めてくれた。それで、これはいけるんじゃないかと思いましたね。音楽家としての経験がなくても、今の音をずっと浴びていれば通用する場面があるのかもしれない、と。
ゼミ生のうちに図々しくコーライト、100曲目で決まった初採用
ーーいける、と思ってからは、どう動いたのですか?
宇野:ここで効いてきたのがコーライトでした。ゼミで私が出していたのは、自分で歌って、自分で歌詞を書いて、自分の下手なトラックで作った曲です。伊藤さんからは、メロディーは面白いし、平坦な歌い方も今っぽくてアイドルの曲にはちょうどいい、でもトラックがひどいから、このままではプロになれないよ、と言われていました。
それなら、誰かとコーライトしたいと思ったんです。ちょうど真鶴のキャンプで一緒になった作詞家さんの旦那さんが、山口ゼミの卒業生が集まるクリエイターチーム、Co-Writing Farmの1期生でした。それで、一緒にコーライトさせてもらえないかとお願いしました。
ーーなるほど、Co-Writing Farmに入る前に、現役メンバーと組んでしまったわけですね。
宇野:当時はゼミ生がCo-Writing Farmのメンバーと組む例がなかったので、主宰の山口哲一さんには「図々しい」と言われましたよ(笑)。
ただ、このコーライトで学んだことが本当に大きかったです。組んだ相手は、トラックが素晴らしいのはもちろん、教わることがどれも具体的でした。仮歌は自分で歌うのではなく、曲に合う人を探して頼むこと。サビが響かないなら、サビ前のBメロの終わりを長い音にして、タメを作ることなどなど。ああ、曲はこうしてポップになっていくんだ、と。そして「図々しい」と言われつつも、いい曲が作れるなら入れないわけにもいかないよね、と山口さんたちが言ってくださって、Co-Writing Farmに入ることになりました。

AMC Studio http://amctv.co.jp
ーーCo-Writing Farmに入ってから、最初の採用はいつだったのですか?
宇野:ちょうど100曲目を作ったときでした。山口さんはよく「100曲作りなさい」と言うのですが、私は仕事もしているので、月に5曲、年間60曲が限界だったんです。それでも1年半ほどかけて100曲に届いて、その100曲目が採用されました。やはり100曲には意味があるんだな、と思いましたね。偶然といえば偶然なのですが、曲を作り続けていると、自分のアクがどんどん取れていくんですよ。
ーーアクが取れる、というのはどういうことですか?
宇野:自分を出しすぎなくなる、ということですね。たとえばチームで議論していて「そのメロディーは違うよね」と言われたときに、「でも私はこの音が欲しい」と押し通すのはダメなんです。ほかの人がそう感じるなら、せめてチームの人たちが「これいいよね」と思えるところまで持っていかないといけない。そうすることで、曲はもっとポップになっていく。それは自分が折れるという意味ではなくて、いろいろな人が聴いたときに受け取りやすい、角の取れた曲にするということです。作っているのはアーティストの曲であって、自分の曲ではないのです。そうして自分のアクが取れてきたのが、100曲目ぐらいだったんだと思います。
ーーその100曲目が、デビュー曲になったわけですね。
宇野:K-POPグループのOH MY GIRLの日本デビューアルバムに入った、「抱きしめるの」という楽曲です。
採用されてもリリースまでは分からない、職業作曲家の現実
ーー採用の知らせを聞いたときは、どんな気持ちでしたか?
宇野:たしか、当時コンペの窓口だった伊藤さんから「通った」と聞いたのですが、まず思ったのは、気を引き締めなきゃ、ということでした。最初の採用だったので、ここで落とすわけにはいかないと思ったんですね。
コンペに出すのはワンコーラスだけなので、採用の後は2番を足して、先方の修正も受けながらフル尺にしていきます。しかもこのときは、ワンコーラスには入っていなかったラップも、フル尺では入れることになったんです。だから、とにかく慎重にいかなければ、という気持ちでしたね。
ーー採用が決まっても、それで終わりではないのですね。
宇野:採用と言われてから本当にリリースされるまでには、またいろいろあります。実は、採用が決まった後のフル尺を作る段階で気が抜けて、結局流れてしまった曲もありました。なので、フル尺を作ってOKが出ても安心はできなくて、レコーディングまで行ってもまだ90点。本当にリリースされるまでは分からない、と思っています。
ーーそれだけに、「抱きしめるの」が無事にリリースされたときは、さすがにホッとしたでしょうね。
宇野:ホッとしました。発表される前は人に話してはいけないことになっているので、ファン向けのライブでお披露目されたときに、ようやくこれで人に言える、と。嬉しかったですね。
ーー初採用の後、次の採用はすぐに続いたのですか?
宇野:しばらくは、年に1、2曲というペースでした。次に採用されたのは、フィロソフィーのダンスの「サンフラワー」です。映画「フラ・フラダンス」の主題歌に決まって、一気に話題になったのですが、コロナ禍で映画の公開が1年ほど延びてしまいました。この曲も本当にリリースされるのだろうか。そう思いながら1年を過ごしたので、映画館でようやく聴けたときは、心からよかったと思いましたね。
手当たり次第をやめたら当たり始めた、得意ジャンルをポップに引き上げるプロデューサーの役割
ーーなるほど、最初は年に1、2曲だったわけですね。そのペースはどこかで変わったのですか?
宇野:2、3年目ぐらいに変わりました。それまではコンペが来たら手当たり次第に出していたのですが、自分の好きなジャンルを、そのジャンルが得意な人たちと組んで作ろう、と考え方を変えたんです。そこからはブラックミュージックに強い人たちと組む機会を増やして、出すコンペも自分で選ぶようにしました。そうしたら、やはり当たりやすくなったんですね。数を打てばいいわけではないんだな、と感じました。
ーー得意なジャンルの方が通りやすい、と。
宇野:得意なジャンルの方が、細かいところまで分かるんだと思います。実際、この間プロデュースを担当した曲も、得意を出したことがきっかけでした。
その楽曲は、先方から、作家と組みたいのでストックを何曲か聴かせてほしい、という話がCo-Writing Farmに来たのが始まりでした。そこで、シティポップにブラックミュージックの要素を取り入れた自分の曲を聴いてもらった結果、宇野さんにプロデュースをお願いしたい、ということになったんです。自分のアーティスト性は出さない方がいいけれど、自分の好きなものは追求した方がいい。得意は得意でいいんだな、と思いましたね。
ーープロデュースを手掛けたのは、どの曲ですか?
宇野:岡田紗佳さんの「カケヒキ・フライディナイト」です。ボーカルディレクションまで作家に全部任せたい、という企画で、3曲あるうちの1曲を私が担当しました。Co-Writing Farmの田辺望さんと一緒に作って、ボーカルディレクションも自分で手掛けました。好評だったので、嬉しかったですね。
ーープロデュースまで手掛けるようになった今、チームの中でのご自身の役割をどう捉えていますか?
宇野:ジャズなりブルースなりR&Bなり、特定のジャンルがすごく得意な人たちの音を、J-POPとして通用する形に引き上げる。その役を私が担っている、という自負があります。私自身はギターが弾けるわけでもないので、その人たちの演奏やトラックの力を借りる。その代わりに、私がメロディーや構成をポップスの文脈に置き換える。お互いにWin-Winの関係でいるつもりです。
ーー1人では難しい、ということでもありますね。
宇野:1人では全然ダメだと思います。日本には、何でもできる人が一番偉い、という空気がありますよね。作曲家なら、編曲からミックスまで全部自分でできるのが一番偉い、と。でも、それぞれの工程には、もっと得意な人がいるはずなんです。メロディーをもっとポップに作れる人もいるし、アレンジは好きだけれどミックスは別の人に、という人もいる。ジェネラリストの方もきっと、スペシャリストとチームを組んでみることで新たな発見はあると思います。
ーー分業の話が出ましたが、宇野さん自身はボーカルディレクションをどこで覚えたのですか?
宇野:現場で覚えました。コーライティングで採用されると、レコーディングに行かせてもらえるので、隣でほかの作家さんが、ボーカルディレクションをしているのを何度も見ることができます。次は自分が担当するつもりで見て、不安なときは場数を踏んでいる人と一緒に行く。そうして経験を積んでいったら、いつの間にか1人でできるようになっていました。
こうした場に立ち会えるのも、チームで曲を作るCo-Writing Farmの体制のおかげです。入ったばかりの人でも、チームの中にすごい人がいれば採用されて、現場を経験できる。そのうち自分もできるようになっていくので、とてもいいシステムだと思います。
アーティストではなく作曲家を分析する、全員が主役のチームCo-Writing Farmの中身
ーーたしかに、それはいい仕組みですね。ほかにも、コーライティングだからこそのよさはありますか?
宇野:まず、作れる曲の幅が広がることです。1人で作っていたころは、自分で歌いながら曲を作っていたので、どうしても女性ボーカルの曲ばかりになっていました。自分が歌いやすい音域で、ピアノの弾き語りで成立するような曲です。踊れる曲は作れなかったんです。Co-Writing Farmに入ってからは、ダンス曲やバンドものも作るようになって、ジャンルが一気に広がりました。これがすごく楽しいんです。
それからもう1つ。一番の特徴は分析です。コンペには、こういう曲が欲しい、というリファレンス曲が付いてきます。Co-Writing Farmでは、そのリファレンス曲がどう作られているのかをコンペのたびにみんなで細かく分析して、求められている音を掴んでから曲を作るんです。だから採用にも近づきやすい。Mrs. GREEN APPLEさんや米津玄師さんのようなアーティストの曲なら、いろいろな人が分析していますよね。でも、一般には名前の知られていない作曲家の曲を分析しているサイトや動画は、多分ないと思います。それを毎回のコンペで続けているのが、Co-Writing Farmのよさですね。
ーー作曲家を分析する、というのは面白い切り口ですね。
宇野:コンペで提示されるリファレンス曲について、コードに対してメロディーをどう乗せているか、このリズムの置き方はK-POPっぽいよね、といったことを見ていきます。構成やBPMだけではなく、コードは短調なのにメロディーは長調で来ているよね、ソの音にソ♯をぶつけているよね、B♭のコードにCのメロディーを乗せているよね、というところまで細かく分析します。理論上は避ける音だから、と理屈で片付けずに、実際にどう鳴らしているかを見るわけですね。
しかも、どこを見るかは人によって違います。いつも同じチームで組んでいると分析の仕方が固まってしまいますが、コンペごとに違うメンバーと組むと、そういう見方もあるのか、と毎回新しい視点に触れられる。だからコンペを重ねるほど、分析の力が付いていくんです。進め方は、Googleスプレッドシートにみんなで分析を書き込んで、メッセンジャーで意見を交わす、という形で進行していますよ。
ーーみんなで分析するとなると、チームの中にリーダーや主役のような人はいるのですか?
宇野:いないんです。Co-Writing Farmには、エンジニア、トラックメーカー、メロディーを書くトップライナー、シンガー、ギタリスト、ベーシストと、いろいろな人がいます。でも、誰かが主役で、ほかの人はその人を引き立てる、という形にはなりません。コンペごとにチームは組み替わりますし、肩書きで役割を分けることもない。分析も、曲の方向性を決めるのも、全員です。
ーーそのチームは、どのように組まれるのですか?
宇野:自分で声をかけるか、誰かに声をかけてもらうか、どちらかしかありません。待っているだけではチームは組まれないので、Co-Writing Farmに入っても、誰ともコーライトしないまま終わっていく人もいます。多少図々しくないと続かないんですね。私も最初の採用が取れるまでは、誘っても「ちょっと忙しいから」と断られることが結構ありました。でも、そこで傷ついて引いていたら今はないわけで、図々しくいく精神は大事だと思います。
ーー組みたい相手が決まったら、連絡はどうするのですか?
宇野:私の場合は「スケジュールいかがですか」と、メッセージを送ります。都合が合わなければ、また別の日に当たってみる。時間はないけれど1日のセッションならできる、という人もいるので、その日に集まって1日で作ってしまう曲もあります。
相手を選ぶときは、プロデューサーの目線で考えます。たとえばコンペの要項には「バンドもの」だけ書いてあっても、リファレンス曲を聴くと80年代、90年代のブルーアイドソウルっぽい。それなら最近のギターサウンドの人ではなく、当時の音を知っている人がいい、と考えて声をかけたりしますね。Co-Writing Farmは、人の層が厚いので特徴の違うギタリストも、好みの違うトラックメーカーもいるので、入ってきたコンペに一番合うメンバーが必ずいます。
ーー声をかけるには、相手がどんな人なのかを知っていないといけませんね。
宇野:Co-Writing Farmにはコーライティングスタジオという専用のコミュニケーションツールがあって、自己紹介のスレッドやコンペの情報が全部そこに集まっているので、誰がどんな経歴で、どんな曲を作っているのかは検索すれば分かるんですよ。
ーーなかなか便利なツールですね。
宇野:ほかにもブラックフライデーのときはセール情報のスレッドが立って、今年はこれを買いました、今これを買おうか悩んでいます、という話が飛び交います。
Webサイトなどでゲットできる情報と何が違うかというと、その人がどんな仕事をして、どんな音を出しているのかを知った上で話が聞けることです。自分が目標にしている、採用を取り続けている人がこれを買っているんだ、と分かる。たとえば、ギタリストの小木岳司さんが機材の入れ替えでご自身の機材を放出した際は、その採用歴にあやかって買う人もいたりして。ものすごいコミュニティになっていると思いますね。私自身は機材に詳しい方ではないのですが、最新の機材を追いかけている人がすごく多いので、このスレッドは必ずチェックしています。
Cubaseがメイン、Logicは分析用、ヘッドホン3機種で作る自宅の制作環境と低音という課題
ーー制作環境についても聞かせてください。DAWは何を使っているのですか?
宇野:メインはCubaseです。最初に使ったのがCubaseだったので使い続けています。Logicはステム分離がきれいなので、曲の分析のために併用しています。また曲の雰囲気を伝えるためにLogicのセッションプレイヤーで、ある程度のリズムとベースラインを付けたりもしていますね。
オーディオインターフェイスはRMEのBabyface Pro FS。スピーカーにはそれほどお金をかけていなくて、その代わりに、ヘッドホンはたくさん持つようにしています。
メインはbeyerdynamicのDT 770 PRO。きれいに聴こえますし、レコーディングの現場にもよくあるので、これを選びました。ShureのSRH840も使っていて、普段使いは、安いけれど耳が疲れないAKGのK240です。いろいろなヘッドホンで聴き分けて、スピーカーはリファレンスの確認に使う、という形ですね。
ーーヘッドホン中心の制作なのですね。
宇野:そうなんです。ただ、周りからは「早くちゃんと低音を聴ける環境にしなさい」とよく言われます。低音を聴き分けられるようになって採用が取れるようになった、と中島義道さんという作家も言っていました。だから、部屋を防音して、低音がきちんと出るスピーカーで聴かないと怒られるんですよ(笑)。
今の防音設備は、歌を録るときに使う小さな簡易防音室だけです。1人で作っている分にはそれでもごまかせるのですが、Co-Writing Farmでは自宅に集まってセッションをするのが流行っていて、防音がないと「セッションしようよ」と言われても自宅を開放できません。部屋ごと防音しないといけないな、と思っています。
ーーちなみに音源やプラグインは、どんなものを使っているのですか?
宇野:KONTAKTをよく使いますが、私は曲をピアノで作ってしまうタイプで、音源にはあまり詳しくないんです。だからベースの音も、KONTAKTに入っているものをそのまま使うことが多いですね。ただ、最近買ったUVIのKey Suite Acousticがすごくいい音で、中でもModel Dというグランドピアノをよく使っています。ピアノの音がいいと、弾いているときの気持ちまで変わるな、と思いました。
ーー最後に、DTMステーションの読者に向けてメッセージをお願いします。
宇野:Co-Writing Farmのような場所に入らないと届かない生の情報があります。たとえばpono.さんという方は、前の事務所ではなかなか採用が出なかったのに、Co-Writing Farmに入ったら一気に採用を取れるようになって、今度は某有名アーティストにも曲提供が決まっています。きっかけを聞いてみたら、飲み会で「ミックスの抜けが悪いんだよね」とボソッとこぼしたときに返ってきた、ちょっとしたアドバイスだったそうです。
ある程度できる人が行き詰まっているところは、本当に小さなことだったりします。しかも、どこで行き詰まるかは人によって違う。先生に教わるのとは違って、仲間と何気なく話しているだけで突破口が見つかって、実際に音が変わるんです。私も1人で作り続けていたころは、自分に何が足りないのか分かりませんでした。それを仲間に教えてもらえる場所があったから、今があります。だから、DTMステーションを読んでいる方にこそ、こういう場所に来てほしいですね。
それと、SONICWIRE BLOGに私のインタビュー記事が掲載されているので、こちらもぜひ読んでいただきたいです。「AIはコンペで使用しないルールがあるけど、怖がって近づかないでいるのではなく、現在地を知ろう」と思って受講した「AI作曲プラクティス講座」で、制作した曲が賞をいただいたのをきっかけに、インタビューしていただいたものです。
ーー本日はありがとうございました。
プロ作曲家養成の山口ゼミが第54期の受講生募集中
宇野さんが職業作曲家として活躍するきっかけになった山口ゼミが現在第54期の受講生を募集中です。受講期間は2027年1月13日~3月31日の3か月間で全8回の講義となっています。現在はオンライン講義が基本となっているほか、実際に受講生と講師であるプロ作曲家が集まって行うリアル講義も組み入れた展開となっています。地方在住などでどうしてもリアル参加ができない場合は、すべてオンラインで、という受講も可能です。
受講料はその3か月・全8回で48,400円。11月30日までは早期申し込み特典として41,140円での申し込みが可能です。また、学生の場合は学生受講料というものがあり、38,720円となっています。
受講申し込みはPeatixから受講チケットを購入する形となっており、クレジットカード決済のほか、コンビニ/ATM、PayPal、銀行振込も可能となっています。
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