360 WalkMix Creatorを使い360 Reality Audioのサウンドを作ろう Cubase編

ソニーの360立体音響技術を用いた新しい没入感のある音楽体験、360 Reality Audio。DTMステーションでもこれまで連載の形で紹介してきましたが、360 WalkMix Creatorというプラグインを使うことで、立体音響作品をDAW上で作っていくことができます。ヘッドホンで音を聴いていても、一般的なステレオサウンドとはまったく異なり、左右はもちろん前後上下…と立体的に聴こえるサウンドが作れるのが、大きな特徴となっています。

これから実践編ということで各DAWでの利用法について紹介していきたいと思います。この360 WalkMix Creatorは直感的に誰でも操作できますが、最初に制作環境に合わせた独自のセッティングを行う必要があります。そこで各DAWにおけるセッティングのポイントを紹介していこうと思いますが、まずはCubaseでの使い方について見ていくことにしましょう。

Cubase 12を使って360 Reality Audio作品を作っていく手順を紹介

ご存じの通り、Cubaseにはさまざまなラインナップが存在しています。最新版のCubase 12においていえばCubase Pro 12、Cubase Artist 12、Cubase Elements 12の3種類があるほか、オーディオインターフェイスなどのハードウェアにバンドルされるCubase AI 12、Cubase LE 12のトータル5種類があります。

Cubaseで立体音響……というと、Cubase Pro 12を思い浮かべる方も多いとは思います。確かにCubase Pro 12にはサラウンド機能が搭載されていたり、Dolby ATMOS用の制作機能が備わっているので、そう捉える方もいそうです。でも、この360 Reality Audioのサウンドは、これまで何回か記事で紹介してきた通り、VST3プラグインである360 WalkMix Creatorを使って制作をしていくため、WindowsおよびMac上でCubase Pro 12に限らず、Cubase AI 12やCubase LE 12であっても、作っていくことが可能になっています。

まずは360 WalkMix Creatorをインストール

まずは、360 WalkMix Creatorをインストールしておき、Cubase 12を起動します。

空のプロジェクトを作成し、これを48kHzのサンプリングレートに設定しておきます。通常はスタジオ設定の画面の「オーディオシステム」のところで、利用したいオーディオインターフェイスを指定するのですが、ここではそれを指定しないのがミソ。複数のオーディオインターフェイスが表示されている場合、実際の出力として使わないものを指定します。

WindowsではGeneric Low Latency ASIO Driverを設定する

多くの場合、接続されているオーディオインターフェイスは1つのみだと思いますが、その場合、WindowsではGeneric Low Latency ASIO Driverというものを指定しましょう。これがPC標準のサウンド機能を駆動するためのものとなっています。Macでは内蔵オーディオを指定するといいでしょう。またこのASIOドライバ設定において「ドライバーなし」という選択肢もありますが、これを選ぶと再生に問題が発生するようなので、避けてください。

Macでは内蔵オーディオを選択する

では、ここから360 WalkMix Creatorを組み込んでいきますが、まずは試しにオーディオトラックを1つ作成します。この状態でMixConsoleを立ち上げ、一番右側のマスタートラックに相当するStereo OutputのINSERTSのところに360 WalkMix Creatorをインサートします。プラグインがカテゴリー順で並んでいる場合はMonoの中にあるはずです。メーカー順ならばAudio Futuresの中に入っています。Stereo Outにインサートされた360 WalkMix Creatorを選択して開くと、プラグインが起動してくるわけですが、初回起動時のみログインを要求されるので、ログインしてアクティベーションしてください。

360 WalkMix CreatorをStereo Outにインサートする

360 WalkMix Creatorの画面が表示されるとともに「マスター出力先として設定する」という表示が出てくるはずなので、「設定する」をクリックしてください。ボタンを押すと設定された旨の表示に変わるので、このウィンドウはいったん閉じてしまいましょう。

Stereo Outにインサートしたものをマスター出力として設定する

続いて今度は、先ほど作成したオーディオトラックのINSERTSに再度、360 WalkMix Creatorをインサートします。すると今度は先ほどとはだいぶ違う画面が立ち上がってきます。これが360 WalkMix CreatorのPANNERの画面なのですが、ここでいろいろ設定を行っていく必要があります。

オーディオトラックにインサートすると、このような画面が立ち上がる

まず右下にある歯車アイコンをクリックします。すると各種設定画面が現れるのですが、最初にオーディオデバイスタブを選択し、オーディオインターフェイスの設定を行います。ここでは出力タイプからWindowsであればASIOを、MacであればCoreAudioを選択します。

Windowsの場合はASIOを選択、MacではCoreAudioを選択する

その後、出力デバイスのほうで、これから使用するオーディオインターフェイスを指定します。先ほどCubaseのスタジオ設定で指定したオーディオインターフェイスではなく、実際に出力するものにする、ということが重要なポイントです。

また、この際、出力サンプルレートが48000に、出力バッファサイズが1024程度になっているようにしましょう。もし出力サンプルレートが違う数値の場合は「デバイスセッティングパネルを開く」をクリックして変更するようにします。

オーディオインターフェイスを指定するとともに、出力サンプルレートを48kHzに設定

さらにスピーカーおよびヘッドホンも確認していきます。スピーカーはイマーシブ環境やサラウンド環境が用意されているのであれば、それらを指定します。もっとも多くのユーザーはステレオの2chだと思います。そうした場合でも、ヘッドホンで立体的にモニタリングすることが可能なので、ヘッドホンのみでモニタリングする場合は、スピーカーについてはとくに設定しなくてもOKですが、簡易的にという意味で、Standard 2.0(Stereo)を設定しておいてもいいでしょう。

スピーカーを設定する。ステレオ2ch環境の場合は、あくまでも簡易的なものだが、Standard 2.0(Stereo)を設定

ヘッドホンも同じく、左右のチャンネルが正しく設定されていることを確認すれば大丈夫です。

ヘッドホンについても設定されているかを確認しておく

そしてヘッドホンでモニターする場合は、画面左下のヘッドホンアイコンをクリックして青く点灯させてください。

電源ボタンをオンにする

その上で、画面中央上にある電源ボタンをオンにして緑に点灯させると、ようやく準備完了。ここで、Cubaseの再生ボタンをクリックすると、画面上に表示されているオブジェクトが再生音量に合わせて光り出し、ヘッドホンから音が立体的に聴こえてくるはずです。もし、内蔵スピーカーなどから音が出てしまう場合は、どこかにミスがあるので、再度チェックしてみてください。

再生すると、オブジェクトが再生音量に合わせて光り出し、ヘッドホンからは立体的に音が聴こえる

このPANNERでオブジェクトの位置を動かしていくと、それに伴いモニター音も動いていくはずです。必要に応じて、その移動をオートメーションで記録していくことも可能です。

いまは試しにオーディオトラック1つだけで行いましたが、もちろん実際には、ここからオーディオトラックを増やしていきます。この際、オーディオトラックを追加したら、先ほどと同じように、INSERTSに360 WalkMix Creatorを挿していきます。その際、表示される内容はどのトラックも同じである、ということがポイントです。Audio 01というトラックを示すオブジェクトも、Audio 02というトラックを示すオブジェクトも1つのプラグイン画面の中に表示されるのです。したがって、プラグイン画面を複数表示させる必要はなく、1つあればいいわけですね。

トラックを増やしていくと、画面上にオブジェクトが増えていく

もちろんオーディオトラックだけでなくインストゥルメントトラックも同じように扱うことができます。インストゥルメントトラックを作成したら、やはり360 WalkMix Creatorをインサートすればいいのです。

インストゥルメントトラックも360 WalkMix Creatorをインサートし、オブジェクトとして配置していくことが可能

ちなみに、トラックの音にエフェクトを掛けたいという場合もあるでしょう。そのときは、360 WalMix Creatorをインサートするよりも前、つまり上のラックにエフェクトプラグインを入れるようにしてください。もし後ろに入れてしまうと、まったくエフェクトが掛からないばかりか、同期がズレる可能性もあるのでこの点は注意してくださいね。

このようにして音を立体的に配置していくのですが、音量が大きくなりがちなので、360 WalkMix CreatorのPANNER画面右側にあるオブジェクトのフェーダーを使って調整します。横のフェーダーだとしっくりこない…という場合、画面を最大化すると画面下にフェーダーが並ぶので、このほうが使いやすいかもしれません。

画面を最大化すると、下部にフェーダーが現れ、コンソール的に扱うことができる

またリミッターをオンにしておくことで、クリップしてしまうことはなくなるので、エクスポート時の安全用途として利用してください。ただし、リミッターをオンにすると再生時に負荷がかかり、オブジェクト数をふやしたときなどに音切れが発生することもあります。バッファーサイズを大きくしても音切れが頻発するようであれば、リミッターをオフにして作業することも検討しましょう。

このようにして作品が出来上がったら、最後にデータの書き出しを行います。この手法については、「360 Reality Audioを制作するためのエクスポート手順とは」の記事で紹介しているので、そちらを参照いただきたいのですが、簡単に流れを説明すると、まず、先ほどオーディオインターフェイスやスピーカー、ヘッドホンの設定した画面にある「一般」を見てみてください。ここにExportフォルダというのがあるのでここのフォルダの場所を確認しておきます。これがデータを書き出すフォルダとなるのです。

Exportフォルダを確認しておく

その後、ファイルメニューから[書き出し]-[オーディオミックスダウン]を選んで、オーディオミックスダウン書き出しのダイアログを表示させます。この際、保存先を先ほどのExportフォルダで指定してあったフォルダと同一のものに設定します。これが違うとうまく書き出すことができないので注意してください。

Cubaseのファイル保存先のフォルダを上記のExportフォルダと揃えておく

その上でサンプリングレートが48kHzになっていること、ビット解像度が24bitになっていること、さらにファイル形式がInterleavedになっていることを確認して、「オーディオ書き出し」ボタンをクリックします。なお、このオーディオ書き出しにおいて、チャンネルの選択として「複数」を選んでパラアウトする方法がありますが、360 WalkMix Creatorのエクスポートを実行する場合は、必ず「単一」のほうで、Stereo Outだけを選択して実行するようにしてください。

書き出しを実行すると、360 WalkMix Creator側がこのような画面に切り替わる

すると、360 WalkMix Creator側には、また新たな画面が登場してきます。ここでMP4/MPEG-Hにチェックを入れるとともに、Level0.5、Level1、Level2、Level3のそれぞれにチェックをいれてOKをクリックすると、データの書き出しがスタート。各レベルすべてを書き出すのには多少時間がかかりますが、これが完成すれば、先ほどの出力フォルダにMP4ファイルが生成されるわけです。

MP4/MPEG-Hにチェックを入れるとともに各Levelにもチェックを入れる

一般的なプラグインの使い方やオーディオミックスダウンの方法とはだいぶ異なるため、慣れるまで少し戸惑うことがあるかもしれませんが、ぜひ、こうした手順を覚えて360 Reality Audioのミックスを楽しんでみてください。

 

複数トラックをグループチャンネルまとめてオブジェクト化

360 WalkMix Creatorを使って立体的なミックスをしていく中で、場合によっては各トラックを1つ1つオブジェクトとして扱うのではなく、複数のトラックをまとめて1つのオブジェクトとして扱うというのも手です。たとえばギターを複数トラックに分けてレコーディングしたけれど、最終的には1つとして扱いたい場合などはまとめてしまったほうが自然です。

グループチャンネルを作ってまとめることで、複数のトラックを1つのオブジェクトとして扱うことができる

予めバウンスして1つのトラックにまとめてしまうという方法もありますが、バスを作って、そこに送ってしまうのが分かりやすいでしょう。Cubaseであればグループチャンネルを作成の上、各トラックの出力先をそのグループチャンネルにするのです。この際、各トラックには360 WalkMix Creatorをインサートするのではなく、グループチャンネルにそのまま送り、グループチャンネル側に360 WalkMix Creatorをインサートするのです。

この辺の使い方はアイディア次第なので、いろいろ工夫してみるのがよさそうです。

【関連情報】
360 Reality Audioサイト(クリエイター向け)
360 WalkMix Creator製品情報

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